「Kanon」

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「Kanon」

Kanonはジャンヌ・ダルクって感じだった。 勇ましく芯が1本通っている、女剣士。 AGI(敏捷性)とATK(攻撃力)特化のレイピア使い。 ギルド間や野良パーティで問題が起きると、自ら先頭に立ち、自分の納得できる話が出来るまでくってかかっていくこともあった。 その日はいつもより早く帰ることができて、固定で遊んでいるメンバーが皆ログインしていない日だった。 仕方なく、誰かが募集していた野良パーティで時間沸きのボス討伐の為にダンジョンに入って、惨敗した。 連携がめためたでボスを倒すどころか、死に戻りでタウンに戻ったのだ。 「盾役のタンクがいないパーティなんだから、防御力が少しでも強いあなたがタゲ取るべきだったんじゃないですか?」 Kanonは俺にくってかかってきた。 「いや。みんなのDIF(防御力)なんて知らないよ。それなら、そう思った時にチャットででも言ってくれたら。。。」 あまりの勇ましさに俺はたじたじだった。 「できたらしてます。ヒーラーも少なかったからスキル以外にも回復薬とかに指使ったら普段使わないキーまで指を置いて。 もうほんとに指つりそうだったんですから。 とてもチャットどころではなかったです! だからボイチャしましょうよって誘いましたよね? あなただけボイチャ入ってくれないから。 えっと、かえさ??なんて読むんです?」 「シーザーです。キャノンさん」 「カノンです。はじまりがCじゃなくてKです。 一発かましますよ?Caesarさん。 あ。ほんとだ。変換できた。」 「はいはい。Kanonさん。 おお。変換できた。」 そんな名前のやり取りがあったから、今まで緊張感で張りつめてた空気が和らいだ気がした。 「私、あなたのこと嫌いではないかも。 今更だけどボイチャしてもう1回野良パーティで行かない?」 「いいですよ。 でも、パーティの募集しててもらっていいですか? ヘッドセット奥にしまい込んでいるので出して来ます。」 正直に言うと、ボイスチャットしながらのゲームって、あまりいい思い出がなかった。 だから、余程のことがない限り断れるように、しまい込んでいたのだ。 でも、出会ったばかりだったのに、Kanonとだったらボイチャしても良いような、そんな気がした。 「ずるーい! LA(ラストアタック)はCaesarさんですよね? ドロップアイテムあったっぽいじゃないですか? ちらっと見えましたけど武器でした?」 「いやいや。 なんか入ったけど、ドロップは各自のものって約束じゃないですか。」 アイテムボックスを開くと武器のアイコンが一番下に増えていた。 「うーん。俺は使わないな。」 「職種違いの武器でした?」 「Kanonさんはレイピア使いですよね。 ドロップ、レイピアでした。」 こういう時、ゲームのチャット機能は便利だったりする。 チャット欄にアイテムを入れると、アイテム名が出るのだ。 「これ、いいな。特殊スキルもついてるじゃないですか。」 確かにボスのドロップだからか性能がいいスキルが付いていた。 「私の使わない武器とトレードしてくれませんか?他にも使わない装備もあるので。出来ればそれもトレードか買取しません?」 お互いに倉庫にしているサブキャラを出したり。どうのこうのして、欲しい武器や防具を取引することにした。 俺の方はサブキャラにでも持たせようかと思ってた、女の子用の装備、ガチャで引いたが余ったアバター装備や色々整理したいのがあった。 不思議とKanonの持っている装備や武器はどれも使えそうなものばかりで、しかもソードマスターの装備ばかりだった。 レイピア使いには装備できないものばかり。 「倉庫整理がてら聞いてもらえません?」 「はあ、聞くだけなら。」 アイテムボックスやら倉庫のアイコンやら、忙しなく見ていたから、流し見だけど流れるチャット欄を時々目で追うことにした。 「付き合ってると思ってた男性がいたんですよ。ゲーム内ですけど。 結婚するのかと思ってて、レアドロップとかクエストのアイテムとか貢いでたんですよね。 でも、彼は昨日別の人と結婚してて。 結婚のチャットが流れた時に、私はキープだったんだなって分かっちゃったんです。 そんなアイテムだから、使う人に貰ってもらった方がきっといいんです。」 結婚式を挙げるクエストをするとチャットが流れる。 毎日どこかの誰かが結婚してる。 そのうちの1人がそんなカスだったのか。 「今のギルド、居ずらくて。 もし、Caesarさんが良ければ、そちらのギルドマスターに紹介して貰えませんか?」 「紹介するのはいいけど、うちはガチ勢ですよ。廃課金も多いし人によってはプレイスタイルや装備にもガンガン口出してきますけど。」 「それくらい、のめり込める方がいいです。」 なんとなく察した。 カスがそのギルドにいるんだろう。 ギルマスに紹介した後はギルドとKanonの話になる。俺は一緒に遊べる人が増えるのは大歓迎だった。 「あつかましいついでにもうひとつお願いしたいことあるんですけど。」 「なんでしょう?」 ここまできたら、どこまででも聞いてやれ。そんな気持ちだった。 「Caesarさんって結婚してますか?」 俺は返事の変わりに配偶者欄が空欄の称号を出した。 「バツイチですけど、何か?」 ゲームシステム的に1度でも結婚すると配偶者がいる称号が手に入る。 この称号にすると狩りの間に貰える経験値が増加する仕様だ。 ただ、離婚すると称号そのものは残るのに配偶者欄は空欄になるのだ。 何とも物悲しい仕様だ。 でも、結婚システムがあるゲームの多くはこういう仕様だ。 「私と結婚しませんか?」 って事で俺はその日、大量の装備と嫁をゲットした。
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