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その御坂氏が、現在において若手監督と出会った。
いや、まだ監督とは呼べない大学生なのだが、事件で亡くなられた
監督の作品に感銘を受けた青年。
そして事件を直接的に扱うのではなく、別作品を作り上げたいという
意欲を胸に抱いていた。
そんな監督の意志に引き付けられた御坂氏は、事件当時の取材記録を
彼に提供して映画制作を手伝っているとのことだった。
「で、その映画で主演をやることになったんだ。
父さん、父さんにとっては辛いかな?複雑な心境もあるかなって。
なんだか心配だから、正式に決まる前に聞いておきたいんだ。
父さんが嫌なら断るよ。役者としてでなく、息子として。
ただ、読んでみたけど脚本は素晴らしいよ、それだけは言っておく」
私は涙でパソコンの画面がぼやけてしまった......。
「豊作、おまえには、おまえには、苦労をかけたのに......。
親とも暮らせないような身の上にしてしまったのに、それなのに、
自身の力で、進む道を決めて、そして、自身で役を取ったのだろう?
先々は不安だが、やりなさい、決意が本物なら、やり遂げなさい!」
豊作もつられて泣いた。
役者にあるまじきグシャグシャの顔になっていた。
「父さん、ありがとう、ありがとう!
俺、事件被害者の子であると公表するよ。
そして立派に初主演作品に貢献してみせる!」
事件被害者、事件を取材した記者。
そして......。
時を越えて感化された、未来ある若者が撮る映画。
あらゆる機運が、ひとつの名作を作り上げようとしていた。
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