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オルガン
これは一九三九年の九月の話だ。その頃始まったのがあの第二次世界大戦だ。僕は……その時十五だった。大工の親方のもとに生まれながらも力がそこまで強くなかった上に、大工らしい威勢のようなものもなかった僕は近くの商店で働いていたんだ。職場と家を行ったり来たりすることが殆どの毎日。でも二十歳になれば徴兵される。当時は支那との戦争の真っ最中だったし、もし仮に米英と戦争にならなくても自分もそこに連れていかれて靖国に祀られるんだとぼんやり考えていた。まぁ、その数年前に結核で死んだ姉に会える可能性があるなら悪くないのかもしれない、なんて軽くとらえていけど。そんな当時の僕には楽しみが一つあった。音楽をやることだ。小学校時代に出会った先生の家に行ってね。月に一、二回約束して行われたピアノの演奏は当時の僕の人生において最も幸福なときだったかもしれない。んで、これはその時の話。
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