ひとさしゆび

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「綾、お風呂入っちゃいな」 その声を聞き着替えを取りに部屋に来た。こっちに来る時の荷物はモモの荷物でいっぱいになってしまったので、私の着替えは最小限にし、部屋着は押し入れに置いてある物を着ればいいと思い持って来ていない。 押し入れの隅の衣装ケースからTシャツを取り出した。 「あっ、一緒にフェスに行った時に買ったお揃いのシャツ」 もう、幾度となく甦って来てしまう記憶を振り払う様に頭を振った。 ……駄目だ、乗り越えられていない…… もう大丈夫だと思っていた。子育てと仕事の日々、夫の事を忘れた日は1日たりともないけど、悲しいという感情は失くなっていると思ってた。 もう大丈夫と思ってた。 ……ここにいると駄目かもしれない……
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