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「あたしが産んだの……? これ……」
虹色の光を浮かべるその卵を、私はしばらく呆然と見つめていた。
あっくんが激しく吠えながら、卵にむかって牙を剥く。
「だめっ! あっくん!」
私は犬から卵を守った。
育てなければ、温めなければ──
本能にそう命じられ、私は卵を抱いた。
ベッドに横たわった格好で、乱暴に扱えば割れてしまうだろうその卵を、守った。
あっくんが、うざい。
しつこく卵を攻撃しようとしている。
私は軽く蹴って退かせると、卵を撫でた。
あっくんは傷ついたように甲高く鳴いたが、どうでもよかった。
なぜだろう……。私はこの犬が可愛かったはずなのに、卵を敵視するなら外に捨ててもいいと思っている。
今は卵を温めることだけが大事なことだ。
あっくんは私の気持ちをわかってくれたように大人しくなると、銀皿に残ったドッグフードを食べはじめた。
次の日は会社を休んだ。
体調が悪いことにして。
ずっと同じ格好で、たまごを温めた。
不思議とお腹が減らない。排泄もしたくならない。
抱きしめていると、この子がどんどん可愛くなってくる。
卵の中から天使の声が聞こえてくる。
私のことを『ママ』と呼んでくれている。
早く産まれておいで。
早く会いたいよ。
あっくんも協力してくれた。
あれほど敵視してた卵に体をくっつけて、一緒に温めてくれる。まるで『早く産まれてくれないと僕がかまってもらえないだろ』というように。
そうしているうちに私は眠ってしまった。
卵を産んでから約32時間経った頃だった。
まどろみの中で、私はぴしりと卵が割れる音を聞いた。
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