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雨が灰色だった。
傘を忘れた私は雨宿り。
屋根を借りたタバコ屋さんに人の気配はなく、たぶん潰れてる。
どうしよう。早く帰ってあっくんに会いたいのに……。
あっかい部屋に戻り、真っ白なチワワのあっくんが嬉しそうに出迎えてくれる光景を、あたしは頭に思い描く。
このまま雨の中を走って帰ろうか──
そう思った時だった。
誰かが駆けてくる足音がした。
シュパ、シュパ、シュパと、なんともスマートな足音だった。
雨のアスファルトを踏んであんな足音を立てられるなんて、すごい。
まるでしなやかな獣が駆けるような──
音のするほうを見た。
そのひとが人間ではないように見えた。
銀色の長い髪をたてがみのように揺らして駆けてくるそのひとは、額から長い一本の角を生やしていた。
私の隣へやって来た。
グレーのスーツにノーネクタイ。ふつうに人間の格好をしているけど、近くで見てもやはり人間には見えない。
ポケットからハンカチを出して額の角の付け根あたりを吹きながら、にこやかな笑顔と爽やかな声で、その男性は話しかけてきた。
「よく降りますね」
雨でびしょ濡れになってるのに、彼を包む色は淀むどころか、銀色に輝いている。
とても端正な顔。今まで観たことがないほどの、まるでCGから抜け出してきたようなイケメン──。
「あの……」
もしかして外国人? と思ったので、私はそう聞くつもりで──
「どこの星のひとですか?」と聞いてしまった。
「あれ?」
自分の額を見つめてる私に気づいたのか、そのひとはその虹色に輝く立派な角を指さし、聞いた。
「もしかして……これ、見えてます?」
私がコクコクコクと3回うなずくと、そのひとは嬉しそうに笑い──
「君を探していた」
そう言って微笑み、私の腰を抱き、指で私の顎を上げさせ、私の唇にキスをした。
魔法にかかったように、とても長い時間が流れた気がした。
ふと目を開けると、私はタバコ屋の軒下に立っていて、相変わらず灰色の雨が降っている。
そのひとは、いなくなっていた。
「……夢?」
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