金が必要に

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「仕方ねー。今日は、これで勘弁してやる。坊ちゃん、行きやしょう」 田中に言われ、俺は暗い気持ちの中、奴に続いて家を出ようとした。 不意に視線を感じて振り返る。 その時、婆さんの背中を摩りながら、俺を睨み付けている爺さんと目が合った。 「…」 俺は何も言えずに、視線を逸らすと田中の後に続いて、今度こそ家を出た。 次の場所に向かう車の中で、組員達は大騒ぎだった。 「俺のいっちょ裏が汚れた!」 「金、結局、持って来なかったじゃねーかよ!」 「しけたモンしか持ってねーしよ!」 「田中さん!このままじゃ頭に顔向け出来ませんぜ!」 田中は車を運転しながら言う。 「次は殴ってでも金を返してもらう」 田中…俺の知ってる田中じゃねー…。 それとも、これが、本来の田中の…極道の姿なのか? 答えは出ねーまま、俺は老夫婦の姿が忘れられず、次の家に向かった。
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