7人が本棚に入れています
本棚に追加
「仕方ねー。今日は、これで勘弁してやる。坊ちゃん、行きやしょう」
田中に言われ、俺は暗い気持ちの中、奴に続いて家を出ようとした。
不意に視線を感じて振り返る。
その時、婆さんの背中を摩りながら、俺を睨み付けている爺さんと目が合った。
「…」
俺は何も言えずに、視線を逸らすと田中の後に続いて、今度こそ家を出た。
次の場所に向かう車の中で、組員達は大騒ぎだった。
「俺のいっちょ裏が汚れた!」
「金、結局、持って来なかったじゃねーかよ!」
「しけたモンしか持ってねーしよ!」
「田中さん!このままじゃ頭に顔向け出来ませんぜ!」
田中は車を運転しながら言う。
「次は殴ってでも金を返してもらう」
田中…俺の知ってる田中じゃねー…。
それとも、これが、本来の田中の…極道の姿なのか?
答えは出ねーまま、俺は老夫婦の姿が忘れられず、次の家に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!