明朝まで楽しく

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 洋一郎はまたリビングに引っ込んで、会話のできる距離にあるソファの肩に足を乗せて横になった。モスグリーンのトレーナーにベージュのチノパン。髪は夕べから一度も梳かさずごろごろしていたので、妙に後ろが立っている。 「今日は葉月、出かけた?」 「ううん。もう寒いしさ。スーパーと、さっきコンビニ」 「俺もなぁ、本当はもう少し頑張れたらいいんだけど」 「いつも帰り遅いんだから、仕方ないよ。今日はちゃんと料理するから、精をつけようね」  いいながら振り向くと、洋一郎は頭頂部をこちらに向けて黙っている。また眠ってしまったのだろうか。  ジャガイモの皮をむき終えて、人参の皮を薄く削る。私は決して料理は得意でも好きでもないのだが、洋一郎のためにはちゃんとしようと決めている。 「ゆで卵もあった方がいいよね、あと玉ねぎとキュウリ」  独り言を言いながら冷蔵庫を開け、平日の共働きで乱れた庫内を片付けながら目的のものを探す。奥の方に横倒しで転がっているペットボトルを見つけた。 「こんな甘いの、好みだっけ」  洋一郎はコーヒーや紅茶はストレートで飲むタイプで、ジャンク味のある飲み物はあまり飲まない。 「何か、懐かしくてさ。そのジュース。つい買っちゃったけど、忘れてた」  また振り向くと洋一郎は今度は真正面からこちらを見ながら歯を出して笑った。 「飲みたかったら飲んでもいいよ」 「いや、いいよ」  少し口調がきつくなったのに、自分で気づいた。私や洋一郎が子供の頃はやった甘ったるいこのイチゴジュースは、私の心の奥をちくりと刺す。
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