明朝まで楽しく

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 すばやくまな板の上の水気で血をこすって分からなくする。 「なんかさ、贅沢させない方針だっていうのだって、貧乏なことを子供に隠そうとしてただけ。うちは貧乏です、っていってくれれば私だって何も欲しがったりしなかったのに。母親が悪いよね、ちゃんと言わずに、贅沢だ、わがままだって散々。挙句に喘息になったのも『わがままだから』だって……」 「ねえ」  少し苛立った声に私は身がすくむ。 「もう聞き飽きたよ、葉月のそういう話。次はあれだろ、お母さんの愚痴話を子供の頃から聞かされ続けたっていう、君の愚痴」  堪えた。洋一郎はそれをずっと我慢していたのか、言ってくれれば止めたのに、という思いと、母と同じ行動をとっていたのかもしれないという、恐怖。まるで遺伝は宿命であるような。  私の手は止まっていた。さっきこすり落とした血が、またまな板の上に垂れている。今度はこすり落とさなかった。悔しさと、洋一郎に対する甘えがそうさせているのを自覚していた。    
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