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「洋一郎には分からないよ……。お義母さんともとても仲がいいし」
かすかな溜息が聞こえて、ますます身がすくむ。
「ああ、うちは家族仲いい方だよ。でもだからって言ってるんじゃない。君はまだ君の母親に呪縛されてる」
「違う!」
思わず大声が出た。反射的に洋一郎に包丁を向けてしまいそうな衝動で、慌てて切っ先を下げた。
「子どもの頃から、愚痴とか不満とか、まるで汚物処理場みたいに扱われて、そう、今の言葉で言えば毒を注入されつづけてきた苦しみ、洋一郎に分かる? 物心ついたときから、一日たりとも自殺を考えなかった日はない。……わがままで自分勝手で、だから虫歯や喘息になって家族に迷惑かけてお金も使わせて。生きてるより死んだ方が皆喜ぶのかなって」
洋一郎は眉を寄せて黙っている。
「私の好きなものはことごとく悪く言われて、私が学校で賞をとったりすると『あんた、何調子に乗ってるの』って言われて。ああそうか、私は罪人だから。わがままで迷惑だから」
怒りを滲ませたように洋一郎はすっと立ちあがった。私はこれ以上言葉が出ない。洋一郎に謝るべきか。いつも忙しく働いて、たまの休みなのにこんな嫌な思いをさせて。それに、せっかく洋一郎のために美味しい食事を作ろうとしていたのだ。私だってこんな展開は望んでなかった。
洋一郎は無言でキッチンに入り、冷蔵庫を開けた。
私は動くことが出来ない。
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