明朝まで楽しく

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 身をすくませるだけの私。包丁を手にして、刻みかけのきゅうりがまな板の上に寝そべっている。ああ、はやく塩もみしなきゃ。それとも、もう止めて家を出る?  冷蔵庫から何か取りだした洋一郎がペットボトルのキャップを開ける音がした。もう、私の話に呆れて、飲みたかったイチゴジュースを飲もうとしているのかな。  私は気を取り直してキュウリをまた刻み始めようと試みた。厚さがまちまちになる。  ぐいと肩をつかまれた。  目の前に唇を引き結んだ洋一郎の顔が迫っていた。  あっという間もなかった。  洋一郎は、口移しに私にイチゴジュースを流し込んだ。  ──美味しい。  ずっとトラウマになっていたあの味が、今素直に美味しい。 「だからさぁ」  洋一郎は横を見ながら言う。照れた時の仕草だと気づいた。 「毒親っていうんでしょ。そんなの。いいんだよ。すぎたことだよ。それより、葉月は本当に俺が好きなの。それが苛つくんだよ。本当に好きなら……だったらこうやって一個ずつ、トラウマを克服しようよ」  涙が出てきた。甘えてる、私。甘えるのが怖い。でも洋一郎が、私が甘えることを望んでいるのだけは痛く感じとれた。
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