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バターが冷蔵庫にないことに気づいて、いちばん近いコンビニに走り、帰宅して七階の部屋の通路に出た途端、まるでほおずきの実のような夕陽が目の前にあった。いつも夕陽はゆらゆらしているのに、雲や大気の加減なのか、本当につやつやした鬼灯そのものだった。
夕陽をじっくり見る機会は今は少なくなっていた。
ふだんは会社の帰りは日の沈んだ後だし、休日は家に籠っていることが多かったから。
丸くて、きれいなオレンジ色で、ただそこにあるのが、なぜかそのとき不思議に思えた。昼間の太陽とは違い、ずっと見ていられる。
体の奥がくすくすと擽られるような感覚が来た。
懐かしい感覚。
遥か昔、田んぼの中の通学路から夕陽を眺めたときに感じたものだ。
くすくすくすくす。
なにか、生き物が体内でうごめいているような感覚。
しばし見惚れて、私はようやく歩き出し、703号室の自宅のドアを開けた。
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