入らずの森の洗礼

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 じっさい、彼女が宿で披露した神聖魔法はみごとなものだった。本職の神官よりもくっきりと輝く光の輪を()び、アルゼリュートの額に授けてくれたのだ。  流れとしては、昨年長兄の妃が身ごもったときに神事の一環として見たものと同じだった。“魔除けの飾環(ホーリーサークレット)”だ。 (きっと、サラは凄腕の神聖魔法使いなのだろう。それで攻撃役を『竜狩り』に。それなら納得だ)  その日、一行はサラの隠遁および結界魔法によって、交代で見張りを立てながら穏やかな夜を過ごした。  ――――夜明け前、最後の担当はサラで。 「え……え!?!? 何だこれは。どういう……!」  翌朝。  妙に芳しい香りで目が覚めると、信じられない光景が広がっていた。やや離れた灌木の茂みに翼ある竜種が頭から突っ込み、事切れている。  というか、盛大に燃えている。 (えええ……事故!? 落雷にでも遭ったのか?)  竜の肉といえば高級食材。  ではなくて。  混乱するアルゼリュートは、寝癖のついた赤毛をそのまま、淹れたての紅茶で暖をとるサラに駆け寄った。 「おはようサラ。あの、飛竜(あれ)は」 「あ、おはようございます。アルゼ。起こしてごめんなさいね。あそこまで大物だと結界が効かないものだから」 「…………効かない、から?」  紅茶を飲んでいないアルゼリュートが、ごくりと喉を上下させる。  サラは手早く王子の分のお茶を淹れて差し出した。旅用の簡易ポットで直接煮出したらしい。 「今、ロンたちに魔石と素材を切り出してもらってるの。ちょっと待ってて」 「あ、あぁ」  アルゼリュートは木のカップを受け取り、呆然と頷いた。
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