13人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあなあ、いいじゃねえか姉ちゃん。一緒に飲もうや」
「やっ……やだ! 離してください」
「『やだ』だってさあ!! かわいーねぇ、年いくつ?」
「ひっ……やめ……。お、女将! 見てないで助けてください!」
「――え? ああ、うん。ごめんねルチルちゃん、今行くわ」
満員御礼の夕食時。
身汚いふたり連れはずいぶん早い時刻から隅の席を陣取り、安酒ばかりを注文していた。おそらくは内地から流れてきたチンピラのたぐいだろう。女の子たちにも注意を促していたのだけれど。
経験則どおりに嫌な予感が的中し、サラは辟易と吐息する。腕を組み、つっけんどんに言い放った。
「どーも。お客さん。うちは、そういう店じゃないんです。お代はお品と引き換えにもらってますからね。安心してお引き取りを」
「はあ?」
「嘘だろ? 女将? こんな嬢ちゃんが? 下手なハッタリとかいいからさあ、あんたもこっち来いや」
ギャハハ、と品のない笑い声に、サラはげんなりと物思いに沈んだ。
(嗚呼……どうしたらこの手の輩を店に入れずに済むのかしら。虫除け香? でも、あれって人間には効かないのよね、残念)
「女将ぃ! 憂えてないで戻ってきてください! お願いします!!」
「…………はっ!? ちょっと、何してんの! うちの子に触るんじゃないわよ」
――しまった。ちょっとばかり本格的な魔法構築式を考えた隙に、ルチルは毛むくじゃらの男に腕を引っ張られていた。すると。
「やれやれ、そこまでだ」
見かねた常連客が立ち上がり、サラの背後から圧をかけてくれた。
(よかった)
サラは、ホッと肩の力を抜いた。
このケースだと、無力なあいつらに残された選択肢はみっつ。
――――――❖――――――
①ストレートに歯向かう
②相手が有名冒険者と気付き、尻尾を巻いて逃げ出す
③捨て台詞を吐き、悪態をつきながらすみやかに去る
――――――❖――――――
最初のコメントを投稿しよう!