挙式と、そこから3ヶ月前のメイドのエミリーSide

1/6
前へ
/346ページ
次へ

挙式と、そこから3ヶ月前のメイドのエミリーSide

 大国ネメシアの隣にあるボーデランドは、貴族社会だ。  1987年の今、私はボーデランドの未来の国王であるカイル王子との挙式に挑んでいる。メイドの身分でありながらだ。  私の心臓はかつてないほどドキドキと鼓動を打っていた。ヴィクトリア女王の治める大繁栄を遂げるイングランドから少し距離がある世界で、とんでもない身分差の結婚式が行われていた。  国王は厳粛な面持ちながらも、優しい笑顔で私とカイル王子を見守っている。カイル王子の花嫁に最も相応しいと議会や世論を説得したのは、何を隠そうこの国王だった。民の世論の先陣を切って、身分差の結婚を実現しようと尽力された。  私の魔力が国益に叶うこと、これからの世は身分で超えられない壁の存在を取っ払うべきだと、王国の民を説得したのだ。  私は美人でもない。  スタイルも良くない。  少し太っているぐらいだ。  生まれも貧しい。  王子の服飾デザイナーを務めるが、その前は子爵家のメイドだった。   「愛しているんだ。君がどんなでも、俺は君を愛すよ、クラリッサ」    カイル王子が耳元でそっと囁いた。彼の青い瞳は最初に私を振った時とは打って違って煌めき、私を期待を込めて見つめている。  このハンサムな彼が私の20歳年上の38歳。私は18歳のメイドだ。出会ってすぐの電撃婚と思われているが、私たちの間には実は20年前に遡るドラマがあった。 「エミリー・ノース。いかなる時もカイル王子を愛すことを誓いますか?」    司祭が今の私の名前で誓いの言葉を言っている。 「誓います」  私は力強く答えた。  これは、私と彼の誰にも言えない秘密のラブストーリーだ。    経緯は3ヶ月前に遡る。 ◆◆◆  まずは、私ではない本物のエミリー・ノースが子爵夫人である貴族の奥方の私になるところからスタートする。2話進むと、私であるクラリッサの話になる。

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加