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森林欲
大学生の従兄弟がアパートで死んでいて、わたしは親に言うべきか祖父母に言うべきか悩んだ挙げ句に母親にだけ話してみたのだけれど「あんたに従兄弟なんていないでしょ」と怪訝そうに告げられて、なぜだか存在自体が死んだ従兄弟がかわいそうになりアパートをまた覗きに行ってみたらそこには植物が茂り始めていて半分ほど緑色で、玄関を閉めて玄関に佇みながら息を吸い込むと土や葉の匂いに満たされて驚くくらいほっとした。
従兄弟は緑になったのだと思った。わたしはここに通い詰めて、植物を育てることにした。肥料を飼ってきて撒いたし、害虫らしいものはせっせと処理した。水はもちろん欠かさず飲ませた。カーテンを開いて光を浴びさせ、ベランダに行きたそうな蔓は方向転換させて部屋の壁を這うようにした。
一ヶ月もすれば部屋はすっかり真緑色になった。壁にはくまなく根や蔓が這い、豊満で幅広の葉っぱはみずみずしく綺麗だった。
最も生い茂っている箇所はリビングの真ん中辺りだ。ここは従兄弟が俯せに倒れて、血を垂れ流していたところだった。
わたしは人の形に膨らんでいる植物の中に座ってスマホを開く。従兄弟に振られた時のメッセージを読み返しながら緑の匂いを肺いっぱいに吸い込んでいく。
呼吸するだけで従兄弟がわたしのものになるなんて、ここは素晴らしい森林だ。
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