ひと時は美味しいご飯で

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空模様に翳りが見え出した夕刻。 メールで”直帰”と会社に送り、スマホをポケットにしまう。 昨日から部下の失態で得意先に菓子折りを持ってお詫び行脚をしていたが、当の部下は退職します、と連絡をしたきり会社には出てこず、当然俺が1人で土下座する勢いで取引の続行をお願いする、という事態に陥っていた。 来ていたスーツの上着を腕に持ち、ネクタイを緩めてため息をついた。 「疲れた…」 大卒から7年、がむしゃらに働き係長という管理職を手に入れたが、所詮、中間管理職、上からの締め付けと、仕事の出来ない年下部下に槍玉に挙げられ、逃げ場もない。 程のいい何でも屋みたいな存在の自分に辟易しながら、少し早いが、もう帰ってしまえと家までの道のりを肩を落としながら20分の道のりを歩くことにした。 梅雨前のジトっとした湿気でシャツが張り付いて気持ち悪い。 つい先日、結婚をしようと付き合っていた彼女に振られた。 3年一緒にいたから、彼女も同じ気持ちだと思ってたのに『好きな人ができたんだ』と言われ返す言葉もなくなり、その日プロポーズするために買っておいた婚約指輪が空くポケットの中で居場所を失った。 今、1日のルーティンに何の変化もなくなって会社と家の往復が続いている。 肩を落としながら坂の上にある自分のマンションへ歩く。 いつもはそこまで感じない道のりも今日は違って自分の足取りが重い。 また、ため息をついた瞬間、ポケットのスマホからメール着信の音が聞こえた。 取り出すのも邪魔くさくて放っていたら今度は着信音が鳴った。 「うるさいな」 「ってゆーと思った」 後ろから声が聞こえて振り返る。 「邪魔くさがんないでよ」 立っていたのは同期の栄田。 「うっせーよ、どーせお前だと思ってた」 「ならちゃんと取れよ、大事な同期の電話だろ?」 でかい図体して笑った笑顔は犬っぽい、昔飼ってたシベリアンハスキーみたいだ、と何回こいつに言っただろうか。 「どうせまたタダ飯でも食いに来たんだろ?」 「わかってるー、その荷物持ってやるから晩飯よろしく」 疲れてるのにまたこいつの世話か… 「彼女に作ってもらえ」 栄田の横を無視して通り過ぎるとひょいと荷物を取り上げられる。 「前に会った時別れたっていったじゃん、話聞いとけよ」 「お前の彼女事情なんて知るか、帰れ帰れ!」 「まぁまぁ、どうせお前ももう直ぐ振られるだろ?いいじゃん、対等〜」 さっきまでの疲れが二重に肩にのしかかってきたようだ。 「わかったよ」 エレベーターで3階、奥から2軒目の部屋が俺が会社に入ってから住んでる1LDK。 鍵を開けて中に入るのは俺じゃなくいつも栄田が先だ。 「お前、俺より先に入るなよ」 「いいじゃん、勝手知ったる何とかってね」 疲れてるのにまたため息が出る。 荷物をリビングに置いてスーツをジャージに着替える。 隣に置いてあるもう一着のジャージを栄田に渡しキッチンに向かった。 冷蔵庫の中を確認して何もないな、そう思っていると、ジャージのパンツだけ履いた栄田が後ろから覗き込んできた。 「野菜炒め食べたい」 「はいはい」 学生時代は居酒屋のキッチンでバイトをしていたおかげで、食事は大体のものが作れる。 元々そんなに仲が良いわけでもなかった栄田が懐き出したのも、研修でウィークリーマンションに数ヶ月住んでいた時にたまたま隣で、匂いに寄ってきたのがこいつだった。 それから、何の縁か本社で同じ部署になり、7年も飯テロに遭っている。 お互い彼女がいる時は少し疎遠になるが、大体栄田が彼女と別れるとこうして会いに来たりする。 「お前、上着ろ!男の裸なんて見せんじゃねぇよ」 栄田をリビングに追いやり、夕飯作りに専念する。 「へーへー、なぁ、あのドラマの続き観た?」 切った野菜をフライパンに入れて炒める。 「観てない、画面出しといて、飯の時に観るから」 「オッケー」 昨日作り置きした鯵の南蛮漬けとほうれん草のお浸しを冷蔵庫から出して皿に取り分ける。 「すげ〜、今日の飯も美味そう」 のっそりと後から覗き込んで冷蔵庫からビールを取り出す。 でかい身体を押し除けて皿を突き出す。 「ほらこれ持ってって」 「了解」 器用にリビングのテーブルに並べてお互いの定位置に座る。 「いただきます」 ドラマをつけて飯を食う。 箸、マグカップ、ジャージ、歯ブラシ、髭剃り、ネクタイ、下着に靴下。 色んなものが増えていく、彼女は部屋に連れてこないから、こいつのものばかりがこの部屋に置いてある。 俺が振られる原因の一つに”彼の方が私より彼女みたいよね”だ。 横でタダ飯をバクバク食べる栄田を見ながら自分の中にある”何か”が胸を突く。 「彼女出来た?」 自然に…聞けてるだろうか? 「気になる?」 「気に…なるだろ。居るならこんな所で飯食ってる場合じゃないだろ、そっち優先するべきだ」 山盛りになっていた野菜炒めの乗った皿がもう半分もない。 「今は居ないよ、暫く作るつもりない」 何故かホッとしている自分が居て、慌てて首を振る。 「なぁ、美木」 「なんだよ」 「俺と一緒に住まない?」 口に入れた米を吹き出しそうになって胸が支えた。 「はぁ?」 「俺さ、彼女と居るよりお前と居る方がしっくりくる」 「いやいや、学生時代ならともかく、こんなアラサー2人でシェアなんて微妙だろ」 「んー、だからさ同居じゃなくて同棲、意味わかる?」 跳ねる心臓の音が耳まで届く。 栄田が持っていた箸を置いて俺に向き直る。 「俺、こんなに一緒に居て楽なの初めてなんだ、それに風呂上がりのお前見てるとムラっとする事がある、これいけんじゃね?なんて思ってる」 自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。 耳まできっと赤い。 「俺の勘違いならごめん、だけどお前もそうじゃないかな、と思うときがある、違う?」 そう言って腕を取られた。 何となく恥ずかしくなってもう片方の腕で顔を隠す。 「顔見せて」 もう片方の腕も取られてあいつの顔が見える。 「ほら。そんな顔して…お前俺の事好きだろ?」 「ち…違う…」 言い終える前に顔が近付いてキスをされる。 「なん…で…」 「結構、俺分かりやすくお前にアプローチしてたつもりだよ?彼女なんて本当はもうこの2年作ってない。」 「お前もそうだといいな、最初はそう思った、けどなかなか手強いから強硬手段」 そう言って床に手首を押し付けられて覆い被された。 耳元で 「返事は?」 首筋を舐められてまたキスをされる。 「やっぱお前エロい」 「ふ…風呂…入ってな…」 「その方が雰囲気でていいじゃん」 「や…やめっ…」 「やめない、ほら返事は?」 「…………」 「強情だな…まぁ身体に聞いたほうが早そうだ」 栄田はすでに張り詰めている自分のモノを俺のモノに押し付けてくる。 「なっ…」 慌てて身体をずらすが、覆い被さる重みで自由に動けない。 「お前も勃ってるじゃん」 上から覗き込まれたその瞳が俺を見据える。 「きゅ…急には無理だ…」 「わかってる、今日は一緒に抜くだけ」 彼のその一言でたかが外れたのか、自分でもわからないほど夢中になって俺は栄田のジャージを、栄田は俺のジャージをずらしてお互いのものを出し扱きあった。 自然と唇を寄せ合い舌が絡み合うほどのキスを繰り返す。 「あっ…」 「気持ちいいな…」 先走りが扱くペニスと混じり合い、グチュグチュと卑猥な音を出す。 「んっ…ああっ…」 「もうちょっと気持ちよくなろうか…」 栄田はお互いのものをくっつけ、ひとまとめにしごき始めた。 腰が疼き始め感じたことのない快楽が全身を駆け巡る。 「も…もういくっ…」 「なら一緒に…」 上下する手のひらが速く動きだし、2人で白濁したお互いの欲望を吐き出す。 気持ちが良すぎて頬を涙が伝う。 栄田が散らばった精液の残骸を近くにあったティッシュで拭いとり、親指で頬の涙を拭った。 「俺と付き合ってよ、美木」 出していた瞳を少しだけ開いて栄田の方を見る。 なんて顔してんだ、モテモテのイケメンが。 そんな頼りない顔するなよ…俺如きで。 起き上がっている彼の腕を取り、引っ張ると俺を囲い込むように向かい合う。 「俺、お前が好きみたいだ」 「俺も…」 「まだ心構えができてない…だから、お付き合いからお願いします」 腕を彼の首に巻きつけ、そっとキスをすると、背中に回された腕でキツく抱きしめられた。 「2年待った…もうダメかと思ってた…」 「ごめん、ありがとうな」 ゆっくり顔が離れて吸い込まれるようにまた軽いキスをした。 「俺ここに住んでいい?」 「ダメだ、けど、泊まりに来い、少しずつ距離を詰めていこう」 「ん」 「じゃあ飯、食おう、折角作ったのに勿体無い」 「おう」 静まり返った部屋にテレビの音が聞こえてくる。 気まずい雰囲気の中ぎこちなく机の上の料理を平らげていく。 口いっぱいに頬張る栄田の横顔を横目で見ながら、そんなことが幸せだな、なんて思った。 これからどうなるかなんてわからないけれど、一歩ずつ2人で決めて進んでいければいい。 「美味しい!」 その言葉だけで胸がいっぱいになった、夜のひと時だった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ここで終わるか続けようか… 悩み中(^_^;)
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