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大人になるまで
『最近良い場所がないんだよなぁ。』
ケロはようやく暖かくなってきたので土から出て、水辺にやってきた。
そして急いでお嫁さんを探し始めた。
精一杯に鳴いて、自分のお嫁さんを探すのだが、元々少ないお嫁さんはなかなか見つからない。
『早くおいで~、ここは良い場所だよ~。』
懸命に鳴いていると、お嫁さんがやってきた。
ケロは急いでお嫁さんの背中に掴まり落とされないようにした。
お嫁さんが卵を産むのを確認して、ケロはお父さんの素を卵に掛けた。
お嫁さんはそのまま卵を水の中に産み落とし、去っていく。
卵はゼリー状の透明の袋に包まれて、少しずつ水草に絡みついている。
『あぁ、よかった。嫌がると死んだふりされちゃうって聞いたことあるもん。ちゃんと卵を産んだってことは嫌われてはいないってことだよね。』
ケロも卵が水辺に落ちたのを確認して近くの森に帰って行った。
3日も経つと卵から小さな小さなオタマジャクシが孵り始めた。
水辺を泳ぐ我が子を、ケロは見ているのかいないのか?
人間の子供が水辺を覗いて子供達をすくおうとしている。
大人がそれを止めた。
『すぐにカエルになっちゃうんだから。学校でもうオタマジャクシは育ててカエルを学校の田んぼに離してあげただろう?持って帰って死んじゃったら可哀そうだぞ?』
最近は良い水場も、昔は子供が育つために使い放題だった田んぼって言う場所も少なくなって、ケロの様に自然で増える仲間はとても少なくなっている。
雨が沢山降る頃にはみんな足が生えて、手も生えて、尻尾が消える頃には一斉に水の外へと飛び出していく。
『近くに水のある所へ行くんだぞ~。ご飯になる虫が多い場所へ行くんだぞ~。』
ケロは子供たちに精一杯大きな声で声援を送った。
夏の間自由気ままに過ごしたケロは寒くなってきたので柔らかい土の場所を探して、地面の下にもぐった。
来年は今年孵った子供達もケロの様に子供を作るはずだ。
でも、あんなに沢山孵っているのに、仲間がちっとも増えないのはどうしてかなぁ。ケロは土の中で夢を見ながら考えた。
ケロは自分のいる場所に、天敵と呼ばれる生物が少ないことを知らない。
オタマジャクシのうちに食べられてしまうものもいれば、大人になってから鳥に食べられてしまうものもいる。
ケロは春になる度に、沢山の子どもを作ってはいつもの森に入って行ったが、3年目の春には冬眠した土から、もう出ては来なかった。寿命を迎えたのだ。
ケロの子どもたちの中にはケロと同じ場所で生活している子供もいたので、その子供はきっとケロの様に長生きできるだろう。
卵からカエルに育つまでに色々な姿になる。カエルになっても森の中に入れば土の色になったり、コンクリートの上に入れば灰色になったりできる。
ケロたちはきっと忍者の生まれ。
生を受けてからどんどん姿を変えて育ち、大人になってからも、いる場所で色を変えて生きる。
稲にいる害虫を食べてくれる、良い生き物でもある。
そう、ケロはアマガエル。
小さいけれど、素晴らしい生き方をする、人間の仲間なんだよ。
いつまでも共存できるように生きる場所を取り上げないでね。
【了】
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