ベルフェゴールの肉細工

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 それから数年がたった。彼は相変わらず自室に引きこもり、『男性差別を許さない会』というHNで活動をつづけている。  あるときは牛角を叩き、またあるときは公共の場にあるエロ広告を批判するフェミスト共を叩き、またあるときはサイゼリヤでの初デートに文句を言う婚活女を叩いた。すべては、男性差別をなくすために。  女性専用車両、映画のレディースデー、そして今回の牛角。さらには入試の女子枠。そもそも女は生まれつき性的資本価値を独占しており、簡単にセックスできるうえ、風俗で働いたりAVに出れば簡単に大金を稼ぐことができる。逆に男は性欲を満たさなくてはならず、女どもは高望みしイケメン高学歴高収入高身長にだけ群がるため、俺のような真面目で誠実で優しい男は中々女体にありつけない。そのため金を払ってセックスしなければならないのである。クソフェミどもは性産業は女性の搾取だと馬鹿なことを言うが、性産業はれっきとした男性の搾取である。  お、良いこと思いついた。彼は、カタカタとキーボードを叩き、ツイー●した。 『クソフェミどもは性産業は女性の搾取だと馬鹿なことを言うが、性産業はれっきとした男性の搾取である。』  イイネ&リツイートがどんどんと増えていく。彼はそれを、裸の美少女のポスターに囲まれた薄暗い汚い部屋で眺めながら、ニヤリと笑った。  彼は決して狂ってはいない。彼はいたって正常で、女に対する憎悪を燃やしていた。本当の弱者は女ではなく男である。女は自分が弱者だと言い張り、男から配慮を搾取するゴミである。それを世間に知らしめなければならない。  そもそも、彼がその活動をはじめたのは、彼があるフェミニストに職を奪われたからである。  彼はかつて地方公務員だった。手取り十五万ほどをもらい、実家暮らしで老後のための貯金しながら、趣味の美少女アニメやエロゲ―を楽しむごく普通の青年だった。  彼の人生を変えたのは、ツイッターのある投稿だった。もう五年以上前なので彼も詳しくは思い出せないが、彼の大好きな萌えアニメを燃やされたのだ!     実際は、股間が浮き出たプリーツスカートを履いた美少女の広告が公共の場にふさわしくないと批判されただけなのだが、彼はTPOを理解するだけの知性がなく、また自他の境界があいまいなため、まるで萌えアニメが好きな自分自身の人格を批判されたかのように感じたのだ。  つまり、彼は激怒した。そして、運が悪いことに、広告を批判した女性は元グラビアアイドルのフェミストだった。  彼はグラビアアイドルが大好きだった。彼が一生拝むことのできない女体をあらわにし、彼の劣情を誘い気持ちの良い射精に導くからだ。女神だとすら思っていた。だが、あの女は彼に牙をむいた。  許せなかった。だから、彼女のツイートを継ぎはぎしてデマを流した。 『女さん「萌え絵ポスターきっしょ」 フェミ「見なきゃよくない?w」 女さん「レイプされたぴえん」 フェミ「被害者ぶってんじゃねーよwww」 #Metoo』  これが思わぬほど拡散され、相手に訴えられ、民事裁判で負けて損害賠償請求を喰らうことになった。それだけならまだよかったのだが、運悪く全国ニュースに載ってしまったのだ。  彼の上司の男性二名が記者会見で謝罪する様子が、テレビで放送された。そして、彼は職を失った。  彼は絶対に許さない。偽物の弱者(オンナ)を。そして、真の弱者は男性だと証明するために今日もネットで戦う。
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