ベルフェゴールの肉細工

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 時は過ぎ 「死ねェ!! クソがァ!!!」  彼は膝に蹴りを受け、痛みにカーペットの上をのたうち回った。ガキが彼を見下ろしていた。姉の息子(3歳)である。  姉が結婚したときはやっとこの家から出て行ってくれると喜んだものだが、姉は旦那だけ海外に住ませて自分は実家で悠々自適に専業主婦(ニート)をしている。 『しかも、同じニートなのにもかかわらず、両親は俺だけに早く働けと言い邪険に扱い、姉にはたびたび体の調子を気遣って母が家事を代わりにやったりしている。これが男性差別でなくてなんなのか!』  クソガキは満足そうに『ぎゃはは!』と彼を指さして笑った。 「くぉんのクソガキがァ!!!」  こぶしを振り上げると、きゃっきゃと笑いながらクソガキは走り去った。彼にはこぶしを振り下ろす権利がなかった。今や、実家の彼以外の誰もがこのガキの味方をするからだ。  ガキはポリコレ最強カードだ。この世の誰よりもか弱く、それゆえ誰よりも強い。だから、彼は女の次にガキが嫌いだった。 『それに、ガキがいるということは、その母親がセックスをしたということで、それはつまり、その女が俺以外の男とセックスしたということで、ガキを見るたびに俺が女に選ばれなかったという事実が、俺の心を締め付けるのだ』 「こら、知人(さとし)! おじさん蹴っちゃダメでしょ」 「ママ―!」  ガキは、さっき彼に向けた表情とは打って変わって、嬉しくて仕方ないみたいな顔で姉に抱きつく。姉は、彼に敵意の眼差しを向けた。私の息子に危害を加えるなと。  それはこっちだ、と彼は思った。 『なぜ、知人(さとし)と息子に名付けた? なぜ、俺と同じ名を息子に?』  これではまるで、自分のほうがニセモノだと言われているようだ。姉の息子のほうの知人(さとし)が成長するにつれ、誰も彼の名を呼ばなくなり、彼はだんだんと自分の居場所を奪われていくように感じていた。  相変わらず自室に引きこもり、アニメの視聴とツイッ●ーでの活動をつづける彼だったが、ある日彼に好機が訪れる。    
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