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姉の息子の知人が中学生になってすぐに、父が脳梗塞で倒れた。母は介護をし、姉は息子の学費と父の介護費のために働きはじめた。そして、
「おねがい、知人。働いてほしいの』
母は、十二年ぶりに彼の名を呼んだ。
「はぁ? お、お、俺は発達障害だぞ!」
どもりながら、口をついた言葉はこれだった。彼は引きこもりすぎた。四十も半ばを過ぎてニートをしていることへの言い訳には、これしかなかった。
『お前らが悪いんだ。障碍者の俺を姉と比べて、貶めて心を折った。この毒親が。産んだ責任は、一生かけて俺を養うことによって償え』
「お父さんが大変なときに馬鹿なこと言わないで!」
取り乱す母に姉は、
「じゃあ、検査したらどう?」
「は?」
そして彼は、二十年ぶりに家の外に出ることになった。本当に久しぶりに車に乗ったので、においがきつかった。車を降りると母に連れられ、静まり返った、白い精神病院の廊下をスリッパでぺたぺたと歩いた。
知能検査みたいなものを受けて、面談をした。そして、結果は
『うーん、アスペルガー傾向はありますが、診断が下りるほどじゃないですね。鬱などの傾向もない。IQも低いですが、知的障害でもないですね。精神面は、いたって健康です』
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