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「うらめしや……」
ボサボサに伸ばした黒髪で顔の半分を隠して、頭には三角形の白い布。体を包むのも白い着物というコーディネートで、両手をダラリと垂らしたポーズ。
お馴染みのスタイルで、私が井戸から登場すると……。
「きゃあっ!」
「おいおい、大袈裟だなあ」
通りかかったカップルが、きちんと反応してくれました。
驚いたのは女性の方だけですが、これで良いのでしょう。彼女はギュッと、連れの男性にしがみついているのですから。
男性の方は、彼女を微笑ましく見守っています。それと同時に、腕に感じる彼女の胸の膨らみ、その感触を喜んでいるようです。彼の表情が微妙にニヤけているのを、私は見逃しませんでした。
どんな形であれ、お客様に楽しんでいただけたら、脅かし役の私としては大満足。私も思わず、ニヤリと笑みが浮かぶほどでした。
「だって、あの幽霊……。ほら、不気味に笑ってる!」
と、女性が私の方を指差して、声を震わせた瞬間。
「バアァッ!」
いかにもな合成音と共に、彼女の背後の柳の陰から、茶色の唐傘お化けが飛び出してきました。
「きゃあっ!」
「おっ、二段構えの演出か」
再び悲鳴を上げる女性と、余裕のコメントを口にする男性です。
「まずは幽霊に注意を向けて、その直後、後ろから傘化け小僧で驚かせる……。でも、これ、逆にした方がいいんじゃないか?」
「……どういうこと?」
男性の方が長々と解説を始めたので、そちらに耳を傾けるうちに、女性も少し落ち着いたようです。そういう効果を狙った上で語っているのか、ただ自分の言いたいことをペラペラ述べ立てているだけか、男性の意図は不明ですが。
「だって、最初の幽霊の方が出来がいいじゃないか。傘の方はオモチャみたいな作り物だが、幽霊の方は違うだろう? ほら、足も透けて見えるし……。CG映像を投射してるのかな?」
知ったかぶりの解説をしながら、二人は、この場から去っていきました。
お化け屋敷の順路に従って。
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