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スーッと滑るようにして、唐傘お化けが所定の位置に戻ります。お客様が消えたのを感知したからではなく、出現時間は数分だけに設定されているからです。
「ご苦労様」
私が声をかけても、もちろん無反応。しょせん作り物ですからね、あの男性が言ったように。
それは正解でしたが、でも彼は二つ間違っていました。
まず第一に、二段構えの演出の件。このお化け屋敷の本来の演出意図としては、
「お客様が井戸に注意を向けて、そこから何か出てくるのではないかと身構えているうちに、後ろから脅かす」
というものであり、私の出現は予定にありませんでした。だから唐傘お化けが私よりチャチな作り物であっても、問題なかったのです。
第二に、私がCGであるという点。薄ぼんやりとした姿なので、映像に見えるのでしょうが……。実は私は、本物の幽霊なのでした。
偽物のお化けたちの中に一人、本物が混じっているなんて、ここに来るお客様たちは誰も、思いも寄らないようです。
生前のことはよく覚えていませんが、おそらく私は、気弱な人間だったのでしょう。
こうして幽霊となった今でも、遊園地のお化け屋敷に隠れ住んでいます。
幽霊ならば幽霊らしく、自分一人だけの力で人間を恐怖に叩き込むべきなのでしょうが、そんなソロ活動をする勇気が湧いてこないのです。
かといって、幽霊仲間を探して一緒になる、という努力もしていません。たまたま見つけたお化け屋敷で、作り物のお化けたちに囲まれているだけで、なんだか安心しています。
本物は私だけなのですから、これはこれでソロ幽霊という話になるのかもしれませんが……。
「中途半端なのですよね、私。いつかは一人前の幽霊として、きちんと一人で活躍したいものです」
まるで人間のようにため息をつきながら、独り言を口にするのでした。
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