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「かすみお姉ちゃん、こんにちは!」
糸川家のドアを開けると、バタバタと花澄に駆け寄ってきたのは、赤いリボンで髪をくくった女の子。
紀明の娘の美紀だった。
以前にランチデートの際、紀明が美紀を連れてきたこともある。だから花澄も既に美紀とは面識があり、彼女が六歳であることも、彼女が好きなものも把握済みなので……。
美紀の背後に紀明がいるのを視界の端で確認してから、交際相手である紀明よりも先に、まずは彼の娘の方に挨拶する。
「うん、こんにちは。はい、これ、みきちゃんにおみやげだよ」
「わーい!」
花澄がクマのぬいぐるみを渡すと、美紀は大喜び。
大事そうに抱きかかえながら、くるりと背中を向けて走り出す。
「みき! かすみさんに『ありがとう』は?」
「はい、ありがとう!」
父親から促されても、美紀は振り返りもせず、とってつけたようにお礼を口にするだけ。そのまま自分の部屋へと駆け込んでいく。
そんな愛娘の後ろ姿を見届けながら、紀明は花澄に軽く頭を下げていた。
「すいません、花澄さん。わざわざプレゼントなんて、気を遣ってもらって……」
「いえいえ、どういたしまして。まだ私、みきちゃんにとっては『かすみお姉ちゃん』ですからね」
「……?」
紀明の顔には、困惑の色が浮かんでいる。言外のニュアンスは伝わらなかったらしいと判断して、花澄は言い直した。
「ほら、甘やかすのは今だけ。『かすみお姉ちゃん』から『かすみママ』になった暁には、手綱を引き締めるところはきちんと引き締めますから、大丈夫ですわ!」
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