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心情的にはすぐにでも拓海を追い出したかったが、心を石にして耐えた。計画のためにも油断させておかねば。
「……分かった。でも、私にも少し時間がほしい。もう会えないなんて、辛すぎるよ」
精一杯悲しいふりをして上目でうかがうと、拓海は頬を緩ませた。
「当たり前じゃん。朋美は家族同然なんだから。普通に会おうぜ、これまで通り」
とりあえず、頭の中で5通りほどの殺害方法が浮かんだ。
眠る時は背中を向けた。
拓海も少しは空気を読んだのか、触れてくることはなかった。
どうやってこいつを闇に葬るか。
拓海のいびきを聞きながら、朋美はそっとベッドを抜け出した。1DKのこぢんまりとした朋美の部屋には、中央に丸いテーブルが置いてある。そこから拓海のスマホを手に取った。まったくもって無防備で、いっそ笑ってしまう。
パスコードは盗み見て知っている。けれども、朋美はこれまで一度だって、拓海のスマホを覗いたことはなかった。
番号は拓海が大学に入学した西暦。難関大学に合格できたことが奴の矜持なのだ。
朋美は鼻を鳴らしながら、トトトトとパスワードをタップする。
ホーム画面はシンプルな画像ながらも、おしゃれにカスタマイズされている。早速メッセージアプリを開いた。
誰もが利用するようなコミュニケーションアプリには、それらしき女性は見当たらない。頻繁にやり取りしている女性は朋美くらいだ。それが逆に怪しい。もしかして、朋美に対して多少は後ろめたさがあったのだろうか。丹念にアプリを一つ一つチェックしていく。
――見つけた。
ぱっと見、地味なアイコンだが、開くと「〇年〇ヶ月〇〇日め♡」という表示とともに、男女が唇を重ねているようなシルエットが浮かび上がった。
このカウントは付き合い始めてからの日数なのだろう。キモ……。
(……2年以上も前からだったのね)
バレないようにマイナーどころを使用しているのか、セキュリティーガバガバの安っぽいアプリだった。メッセージのやり取りを確認する。
愛の言葉を交わしたり、デートの約束やベッドでの睦言など、etc.etc。なるほど、こんなものを使っているのなら、誤爆の心配もない。まるで鉛を無理やり飲み込んだみたいに吐き気がした。
しかし、やり取りは1週間前からパタっと止まっていた。
別のアプリを使っているのだろうか?
全てチェックしてみたけれど、それらしきものは見当たらない。
とりあえず先ほどのカップルアプリに戻り、アルバムに指を滑らせる。幸せいっぱいのツーショット画像が何枚も出てきた。スマホを投げつけたくなったが、天を仰いで耐えた。
怒りを抑え込んで画像を見る。彼女は艶やかな黒髪の、大人しそうな美人だ。一重瞼なのにスッキリしていて、はんなりとした雰囲気。年は同じくらいだろうか。
どの画像も上品で綺麗めなコーディネート。朋美がよく好んで着るようなテイストだ。彼女と自分は似たようなタイプだと思った。
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