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第五話
梨々花は2匹? を抱えて階段を降りていく。コウがヘッドライトを持っていたためそれを彼女は頭につけて暗い中を抜け出すことができた。だがそれで怖い。その怖さをモフモフな2人が梨々花の腕の中で寄り添ったおかげでなんとか出ることができた。
「はぁ、怖かったぁ」
と同時に2匹のキツネは元の人間に戻った。いや、まだこれが本当の姿か化けの姿かはわからない。
「あれ、さっき何か食べてなかった? 戻る時」
「一応興奮が落ち着いたら戻れるようになるんや。でも変身するのは別だが。揚げを食べると通常よりも早く元に戻れる、それに俺らのパワーフードや」
と黒のスーツを着たコウは胸ポケットから丸いサングラスと黒いグローブをはめて身だしなみを整えた。隣の由貴はキツネフードのパーカーの下は普通のスーツのようだが脱がない。
2人が並ぶと明らかに体格差があり、由貴はデカくてコウは梨々花よりかは大きいがそこまで背が高くない。
「てかさっきまであの世にいこうとしたくせにめっちゃビビリなんやなぁ。まぁ飛び降りたところはすごく勇気あるのは認める」
とコウがサングラスをクッと上げた。
「自分もよくぞ飛んだな、と思ってます。それよりも2人はなんでこの廃墟に?」
由貴とコウは頭をかしげる。
「……反対に聞きたい。なぜここから飛び降りたかを」
「いや、前からここ散歩コースで気になってて。じゃあ今度は2人。コウさんと由貴さんはなんでここに?」
「それぞれ呼び捨てでええよ」
「なら、コウと由貴……」
初対面の男性の名を呼び捨てで呼ぶことはなかなかない梨々花は戸惑いながら言う。
すると由貴がパーカーの下に背負ってたリュックを取り出してその中からタブレットを出した。
そのタブレットの画面にはコウが同じ格好でカッコつけたサムネイルが映る、いわゆる動画サイトの彼らのチャンネルのようだ。
「コウ、彼女が僕らの顔知らないのはやはりまだこのチャンネルもまだまだやな。一応僕らは心霊系動画チャンネルもやってて……あ、本業は霊媒師というのは言ったと思うけど」
よく見ると動画のタイトルを見ると音楽室の音楽家の肖像は笑う瞬間、とか市役所のトイレの花子さん、とか口裂け女の発祥の地のロケ巡りとか確かに心霊チャンネルというのはわかった梨々花。
だが彼女は怖いのが苦手でそういう系は見ない。見るのはもっぱら仕事に役立つようなトレンドニュース、商品に関連したものや、可愛い小動物の動画ぐらいである。
そもそも梨々花にとってはこの2人に関して由貴の大柄さは篤志郎に似てても顔のタイプは違うし、かと言ってコウ……なんか見た目からして胡散臭い人間は近づきたくない部類でもある。
と話は逸れたが。
「まさかこのビルも心霊スポット?」
「気づかんかったんかーい! どう見ても霊の匂いぷんぷんやで!」
とコウがそう言うと確かにね……と頷くしか梨々花はなかった。
「どんなのが出るんですか? クビになった人の幽霊とか、社長さんの幽霊とか?」
と適当に答えるとコウが指を鳴らした。
「おう、さすがー。いい線だけどみえてないってことだね。えっと名前聞いてなかった」
「り、梨々花。井原梨々花です。私も下の名前呼び捨てでいいです」
「いや、足の怪我治療してくれた人を呼び捨てにはできないよ。梨々花様、梨々花さん、梨々花ちゃん……梨々花ちゃんにしよう」
チャン付は女友達か祖父母くらいだと思いつつも自分は命を救ってくれた2人を呼び捨てにしてしまったなぁと。
「梨々花ちゃん、では俺の掌に手を置いてください」
とグローブをつけた左手を差し出されてなんのことか分からず手を置く。
その瞬間だった。
「うぎゃあああああああっ!」
乗せた瞬間何もなかった廃墟にいくつかの幽霊たちが蠢いた。パッと離してもみえる。もちろん今までも幽霊とやらを見たことがなかった。
「すまん、俺ら霊がみえるんだけど体のどこかにスイッチがあってオンオフできるんや。しかもさっきみたいに体の一部を触ってもらったらみえない人もみえるようになる」
梨々花の足元にも蔓延る幽霊。首がへし曲がったり顔が潰れたり。
ユキがパチンと指を鳴らした。
「流石に可哀想や。ごめんな、梨々花ちゃん。こうやって僕らがスイッチを切ればみれなくなるしまたみたくなったら触ればみえるようになる」
「いや、もうみたくないです! てかなんですか……ここは!」
コウは地面を照らした。すると血管の跡がある。いつも夜にウォーキングできていたのに気づかなかったようだ。
「ここは有名な自殺スポット。元々なんもなかった曰くつきも全くない夜逃げして倒産した商社のビルや」
確かにものがたくさん起きっぱなしであった。
「一度視聴者からご依頼があって来たらさっきの有様やから昼間に色々調べてなー。自殺スポットと同時に犯罪の可能性もあるのではと」
「ひぃいいいー犯罪!」
ペタンと腰を抜かした梨々花。由貴が大丈夫? と背中をさする。
「もう一回建物入るで」
「えええ!」
コウがヘッドライトをつけると由貴もヘッドライトを二つ出して梨々花の体を起こして頭につけた。
「付き合わせてすまん」
由貴にそう言われたが梨々花は
「いやあああああああ!」
と走ってしまった。
「梨々花ちゃーん! 待って」
コウが追っかけるものだから由貴も追っかけることになった。
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