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第二章 第七話
梨々花の家まで送り届けたコウと由貴。ベッドの上でスヤスヤと眠る彼女を見ている二人。
「ちょっとコウ、いきなりは刺激強すぎたやろ」
「かもしれんけどな……それよりも昨日のコンビニのやつを編集しないと。すぐアップアップ」
「はいはい。その前に廃墟ビルで見つかったあの女の子」
「警察に報告でしょ、わかってるよ」
コウはため息をつく。明らかにめんどくさそうな顔をしている。
二人があの廃墟ビルにいたのは付近で女性が行方不明になっていたから。付近の踏切……コウが梨々花に助けてもらった踏切の防犯カメラにとある男と行方不明の女の子が一緒に映る姿があったため女の子の家族に依頼されて踏切よりも向こうの場所を調べていた。
警察もただの家出と言って取り合ってくれず捜査も終わっていたとのことだ。
「でもあの子の家族に伝えるのは辛いな」
由貴は収録したビデオを見返す。そこには廃墟ビルの中以外は何も写っていない。ただ壁の映像とコウがずっとみえないものに話しかけてる映像であった。
「しょうがない。事実や」
「でも見たかってよかった」
「梨々花ちゃんにも再会できたし、コンビニの依頼も解決したし一石二鳥や!」
暗くなった雰囲気をコウがなごます。一つ一つに情を持ってはいけない、二人はそう約束していた。
「で、梨々花ちゃんはこれからどうするの?」
「もちろん、また会う。連絡先をこの名刺に書いて……」
「そういう事は進んでやるよな」
「るっせぇ。お前こそもっとぐいぐいいかないと」
と、梨々花のすぐ横にコウの名刺を置いた。
「そんなに気に入ったのか、この子を」
「ああ、命を救ってくれたし。それに……」
「それに……おっぱい柔らか……い」
ボワんとコウの耳にキツネの耳が生えた。
「おっといけねぇ」
とコウは息を吸って耳を押さえ込んだ。
「にしても梨々花ちゃん、こんな部屋に一人でずっと住んでたのかな」
と二人は部屋のすみっこを見る。
そこには髪の毛の長い真っ青な顔をした女が白いワンピースを着て泣いていた。体操座りで。
「いんや、誰かと暮らしてたみたいだ」
と次々と指を刺す。その先には椅子二脚、ソファーのクッション二個、色違いのマグカップ二個、そして梨々花の横たわってるベッドの上の二個の枕。
「昨晩ここでシャワー借りた時も男性用育毛シャンプーと女性用の育毛シャンプー、体洗う用のスポンジも2種類あったしな」
「……シャワー使ったんかい」
由貴は相変わらず馴れ馴れしいコウに呆れてる。
「だがその相手はもういない」
梨々花が好きなコウはホッとした様子だ。
「そうか、その相手がいなくなった……或いは、振られた。だからあの廃墟ビルから飛び降りようとした」
すると由貴が机の上に無造作に置かれた書類を一枚取る。
「仕事の企画書。修正の赤だらけ。しかも粗探しのような理不尽なものばかり」
「仕事の方もあまりうまくいってなかったのか。だから……て、こ、これはっ!」
コウはみるみるうちに赤面し、耳、尻尾が次々と生えてくる。そして黒い鼻がでてきた瞬間、由貴は揚げをコウの口にねじこむ。
梨々花の女性用大人の玩具……プレジャーグッズの企画書。形からしてすぐわかり、反応してしまったコウ。
「み、みないほうがいい。あ、こっちはアパートの契約書」
揚げをむしゃむしゃ食べながらアパートの契約書を見る。
「たいへんだ、梨々花ちゃんこのアパートから追い出されちゃうよ」
「思ったんだけどさ、コウ……梨々花ちゃん梨々花ちゃんって馴れ馴れしくない?」
「馴れ馴れしいくらいがちょうどええんや」
揚げを食べた手をベロベロと舐めるコウ。由貴は首を傾げると
「そんなんだから、いつまでたっても彼女できないんや」
コウに指摘されてカチンときたのか由貴頭から耳が生えた。
「るっせー! お前こそ! 馴れ馴れしいからこそお前も女に嫌われるんだよ!」
「なんだとー!」
「この、女好き!」
「むっつりスケベ!」
目がグイッと釣り上がったコウも耳が生えてきた。
横で気絶した梨々花がいて尚且つ夜遅いというのに二人声荒げて喧嘩の始まりである。
そして前のようにあっという間に二人ともキツネになって取っ組み合いの喧嘩をし始めた。
『あのー!』
と今回は梨々花が仲裁に入らなかった。
「コン?!」
二人、もとい2匹がその声のする方をみた。
『私のことそっちのけで喧嘩してませんか?』
白いワンピースの女だった。
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