パンチングマシーン

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 バイト先のゲーセンに置かれているパンチングマシーン。  気晴らしに時々遊んでいたが、この前、店長にこれでもかと小言を言われたので、ムカついて、前に店の連中全員でふざけて撮ったプリクラのシールを貼り、それを殴った。  いやぁ、マジですっきりしたわ。でもその翌日、もっとすっきりすることが俺を待っていた。  急病で午後からの出勤になった店長が店に現れた時、全員が息を飲んだ。  誰かに殴られたのかと思う程、真っ赤に腫れた店長の顔面。  理由は判らないが、昨日帰宅した後に突然顔が痛み出し、こんなふうになってしまったという。  物理的な要因がないので、何かの病気の症状かもと医者に行ったが、殴られた以外でこうなるのはあり得ないという診断結果だったそうだ。  それを聞いて、俺だけが店長の異常事態の理由を察した。  パンチングマシーンに店長のシールを貼って殴った。それが本人を殴ったのと同じ効果になったのだ。  今まで、むしゃくしゃした時のうっぷん晴らしに使っていたけれど、腹が立った相手のシールなり写真なりを貼れば、実際にそいつを殴ったのと同じ効果を得られる。  よし。これからは色んな奴の顔を隠し撮りしよう。そして、ムカつくことがあったらそいつの写真をマシーンに貼り、ぶん殴ることにしよう。  その日は、しんどそうな店長を見てざまあみろと思いながらウキウキ過ごし、バイトを終えて俺は家に帰った。  異変は、それから一時間ほど後に起きた。  痛い。全身が痛い。何か、鋭い物で刺されたような痛みがあちこちに湧き上がる。  もしや、誰かがパンチングマシーンの効果に気づいて、俺の写真を貼って機械を殴っているのか? いや、だけどこの痛みは殴られたそれじゃない。  間違いなく刺されている。でも、さすがにあの機械を刺すなんて真似をする奴はいないだろう。  だったらこの痛みは何だ? …うわぁぁ! 痛い!  痛い! 痛い痛い痛い! …助けてくれ! * * *  店内に設置されていたパンチングマシーンに故障が見つかり、明日、業者に引き取られることになった。  筐体をどうするのかと聞けば、この手の、外部から激しい加圧などがある機械は、一度ガタがくると故障を直してもきりがないので、廃棄して新しい物を設置するのだという。  業者が来た時、一目でそれと判るようにシートを被せておいてくれと言われ、指示通りにシートを被せようとしたのだが、どうせ廃棄ならと、俺は機械に、前にここで撮影した、大嫌いな先輩のプリクラシールを貼った。  すぐに人に仕事を押しつけるのに、先輩風を吹かして威張ることだけ一人前。見かねた店長が先日注意してくれたけれど、反省なんてする素振りもなかったしな。  持ってなんかいたくなかったけれど、何かの拍子に出せと言われた時に手元になかったら、後々また面倒だ。そんな気持ちで捨てずにいたプリクラのシールを、パンチングマシーンに貼った。  本来なら、鬱憤晴らしはこの状態でマシーンを殴ることなんだろうけど、俺は非力だし、こんなの殴ったら手の方が痛くなるから、今までこういう憂さ晴らしはしようと思わなかった。でも、この機械は明日には業者が引き取りに来る。そして廃棄される。  だったらボロボロにしちゃってもいいよな?  荷ほどきの時とかに使う、結構大ぶりの鋭いはさみ。そいつを握り締め、マシーンを刺した。  もう店内には誰もいないけれど、大声を上げたらどこかに響いてしまいそうなので、ごく小さな声で大嫌いな先輩の名前をつぶやき、マシーンにはさみを刺しまくった。  ああ、すっきりした。  自分でもどうしようもないくらい鬱憤が溜まってたんだな。  でも、こんな真似をしても、明日はまたあいつと顔を突き合せなきゃならない。  いっそ、機械を刺した衝撃とか傷とかが全部伝わって、死んでくれたらいいのにな。 パンチングマシーン…完
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