お皿

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 展示会に来た男はある展示品に目を向けた。  部屋の中心に設置された展示台。そこに飾られていたのは1枚の大きな皿だった。天井のスポットライトに照らされて、太陽のように煌々と輝いている。  男がその前までやってくると、近くにいたスタッフが声をかけてきた。 「もしよろしければ、この展示品についてご説明しましょうか?」  男が頷いたのを見て、女は説明を始めた。 「このお皿は今から約1000年前に作られたものだと言われています。海底2万マイルにある海に落ちた島、ナハム・テルトで発見され、世界的に有名な工芸家で知られるミッシック・アザーさんが作りました」  男が怪訝な表情を浮かべる。 「どうしてアザーさんはこの皿を作ったんですか?」 「ミッシック・アザーさんがこのお皿を作った理由は諸説ありますが、最も有力なものは愛する妻のためだと言われています。この時代のお皿は希少品でした。いつも土と一緒にご飯を食べる妻を見て、ミッシック・アザーさんはお皿を作ったのだと思います」  男は皿と女を交互に見て、納得したように頷いた。 「さらに言えば、お皿の作り方も魅力的です。海底に眠っているはずの古代の貝殻や地層に埋もれたはずの動物の骨を粉々にしたものに、標高の高い場所でしか取れない貴重な土を組み合わせることで、このお皿は作られているのです」  男は下にあったプレートに目が止まった。 「2億円?」 「はい。この皿は既にオークションで落札され、2億円の価値があります。SNSでは『♯この皿、いい皿』のハッシュタグと共に世界に拡散されていて、世界的にも有名なものになりつつあります」  説明は以上ですっと女はやり切ったように言った。  話を聞き終えた男は口を噤んだ。そして、皿をなめるように見たあとにゆっくりと口を開く。 「でも、これってニセモノですよね」 「……どうしてそう思ったんですか?」  男は女の顔をじっと見て言った。 「ここの展示会のテーマがニセモノだったからです。もしかして、あなたもニセモノ?」  女はわなわなと床にへたり込んだ。 「ごめんない。出来心だったんです。どうか警察には通報しないでください」  頭を下げる女を見て、男は言った。 「通報なんてできませんよ。だって、私も客じゃないですから」
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