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 ああ、夕食の時間だ。  ソファに腰掛けていたレティは、ドアがノックされる音に(いら)えを返しながらぼんやりと思う。  カーライル家(この家)に来たときからずっと傍にいてくれるメイドのジュリアが、料理の載ったワゴンを押して入って来た。  メイド頭のキャロラインによる「午後のマナーレッスン」が終わると、そのまま自室で一息。その後は食事なのだ。  日々のルーティンにもようやく馴染んで来た。  キャロラインが言うには、本来「上流家庭」では食事は家族揃って、たとえ揃わず一人であろうとも食堂においてが通例らしい。  カーライル家の主人家族は、現在は当主である『父』のアンドリューと一人娘の『ヴァイオレット』だけだ。  『母』のマーガレットは十年以上前に亡くなっていた。  レティは彼女には会ったこともなく、顔も広間に飾られた家族写真(ホログラム)でしか知らないのだが。  ヴァイオレットは、複製(クローン)であるレティの「オリジナル」だった。  彼女の突然の死で、「何かあった」ときのための予備部品でしかなかった筈のレティがその代わりとして連れて来られた。  臓器や血液や、……考えうる限り肉体的なすべてを利用して助ける前に、オリジナルの命が尽きた。  のだ。  当時ヴァイオレットの命が繋がれるとすれば、それは即ちレティが解体される、──殺されるのを意味していた。  今まで「人間」でさえない、ただの複製(レプリカ)に過ぎなかったレティが名家の御令嬢として生きることになった。  レティの意思など、一切介在することもなく決められた運命。
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