極彩色のサボテン

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 今思えば、むなしかったのだ。  先生のほうが、教育者の面をどうしても取れない。  そんなのって、馬鹿みたい。そういうことが言えるほど、凛々子も私も、強くも賢くもなかった。お前はおかしい、お前は異常だ、と言われ続けて。凛々子はぺしゃりと潰れてしまった。  時折わたしは、凛々子に会いに保健室に行った。鮮やかな原色のワンピースを着て、彼女は静かに机に向かっていた。脇に置かれた、宝物だった筈の蛍光グリーンのランドセルには、いつの間にか無数の傷がついていて、彼女はわたしと話すとき必ず、その傷をこすり落とそうとするみたいに撫でた。  わたしたちは他愛ない話をして、予鈴が鳴ったら別れた。彼女の何かが決定的に踏み潰されたことは感じ取っていた。けれど彼女にどんなふうに触れたら良いのかわからなかった。努めていつも通りにしていたけれど、それが正解だったのかなんて知る由もない。  学年があがるのに合わせて、凛々子は遠くの街へ引っ越した。とても寒いところよ、と彼女は説明してくれた。  引っ越しの前日に、彼女はわたしにさようならと言った。いつも通りのバイバイではなかったのが、寒々と苦しかった。さようなら、と返した。元気でね、と、ありたけの気持ちを込めて言った。 「これをあげる」  凛々子はにっこりと笑って、わたしに小さな鉢を差し出した。白い針が生えた丸い植物だった。 「サボテンよ」  放っておいても育って、小さいけれど白い花も咲くの。彼女は得意そうに教えてくれた。
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