3話:それでも幸せは巡るはず

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3話:それでも幸せは巡るはず

 ふわふわした雲のような地面に最後の『世界樹の種』を植えた。  エルフェンはその後、自宅に案内してくれることになった。  ルーナも、ライも、ゼンテもエルフェンに付いていく。 「私には二つの罪があった。一つは、ヴェヒターの両親を守ることができなかったこと。もう一つは、ヴェヒターに『天界』を見てほしくて『世界樹の種』を置いてきたこと。『世界樹』は願えば、災害から守ってくれるし、恵みも与えてくれる。両親を守ることができなかった私は、その罪で『地上』へと降りた。だから二度とヴェヒターが悲しまないようにと、種を置いてきた」  エルフェンが話していると、ルーナはエルフェンの脇を触る。 「ひゃっ」 「つまりエルフェンは好きな人に会いたかったんだね。で、どうよ、他の人を選んで結婚してこうして子孫が目の前にいるわけだけど」 「ヴェヒターは幸せだったんだって思うよ」  ルーナに言葉にm¥、エルフェンが満足そうな笑みで答える。 「私のひいおじいちゃんは、本当はエルフェンさんに会いたがっていた。『世界樹』を育てて、『天界』を目指したいって思っていた。でも『世界樹の種』があればアンデレは安泰だから使いたくなかったって。エルフェンさんはひいおじいちゃんにとって、憧れだったよ。だから私は会えて嬉しい」  よそ者に『世界樹の種』を奪われてから、ライは元気がなかった。  しかし、エルフェンの言葉を聞いて、どうしてもヴェヒターの想いを伝えたくなったのだ。 「僕も。エルフェンさんの話を聞きたいです」  ゼンテは真剣な眼差しで言う。  エルフェンの家に着いた。  近くに小川があって、容器に汲む。  サンドイッチを作って、再び種を植えた場所へ。 「これ以上は私も忙しくて付き合いきれないからね。『地上』で教会の神様をやったことの報告を妖精王様にしなければならないから。だからね、」  ルーナはライとゼンテをぎゅっと抱きしめる。 「罪も邪なオーラもここで浄化してしまうよ」  ライもゼンテも固まっていた。 「悪いことをした、そう思ってくれて良かった。だから私もエルフェンもこうして許せる。後は帰りのために『世界樹』を育てながら、エルフェンと積もる話でもするといいわ」  ルーナは、手を振って去っていった。  汲んだ水を種にかける。  サンドイッチを食べながら待っていると芽が出た。 「夜も昼も景色が変わらない。『地上』の管理をするために魔法で覗いたり、街に出て他の妖精と交流したりするくらいしかやることはないのだけど」 「僕とライは、ヴェヒターさんの話とか聞きたいです」 「分かったわ」  エルフェンは洪水でアンデレ村に甚大な被害を出し、ヴェヒターの親を亡くして作物も魚介類も家畜も失う事態を起こしてしまった。  アンデレ村は豊かな土壌に、河を持ち、天候にも恵まれていて、人々の信仰を魔力に返る妖精たちにとって重要な拠点であった。『天界』はエネルギーも物資も魔力による魔法頼みであったため、アンデレ村を守り切れなかったエルフェンは、『妖精王』の命によって、『地上』で世界樹を育てながら、贖罪のために村に尽くすことになった。  そこで出会ったのが。 「両親を失って、村の人々に愛されながらも自分の力で生きていきたいと思っていたヴェヒター少年だった。初めは私が親を救えなかった妖精だと分かると、無視されていたのだけど。洪水の日、私は魔力が足りなくてどうすることもできなかったから、世界樹の前で願っていたの」 「ひいおじいちゃんはエルフェンさんとアンデレを救ったって」 「いつもライの母さんが言っていたけど」  ライとゼンテはヴェヒターの話を聞いてから、よりエルフェンの話に興味を抱いた。  エルフェンは続ける。 「洪水の日、ヴェヒターが来てくれた。一緒に祈ったらね、世界樹がアンデレ全体を包み込んで、地面を浸していた水を吸って、災害から守ってくれた。それから」  世界樹を育てながら、世界樹に食べ物や流行り病の薬を恵んでもらった。  ヴェヒターはエルフェンの罪を許し、成長した世界樹を使ってエルフェンは『天界』に戻った。  そのときに、『世界樹の種』をヴェヒターに渡したのだ。 「私は会いに来てほしかったと思う。妖精と人間が結ばれることが全くなかったわけではないけどね、子孫であるあなたに言うことではないけどね。私はヴェヒターが好きだったのよ」  エルフェンはライに泣きつく。 「自分勝手に『世界樹の種』を置いてきてごめんなさい。怖い思いをしたでしょ、罪悪感を募らせて辛かったでしょ」  しかし。 「私は母から、ヴェヒターおじいちゃんが『世界樹の種』を時々見ながら楽しかったって。若いときに覚悟を決めて『天界』に行くべきだったって、エルフェンさんに憧れていたって言っていた。結婚してから妻一筋だったけど、エルフェンさんのことも好きだった」  ライは一言添えて。 「男としては浮気者で最低だけど」  エルフェンはライを離して。  膝から崩れた。  ヴェヒターとの二人の日々に、二人の恋心が確かに存在したことを知った。 「最低ね、ヴェヒター少年。いつまでもクソガキ」  エルフェンはぼろぼろと涙を流すが。  その涙は決して冷たくはなかった。  それから、『世界樹』を育てながら、『天界』の美味しい食べ物について話す。  市場に人間を連れて行くことはできなかったが、ライに買ってきてと言われてしまった。  エルフェンが戻ってくると、紫色のシチューが出てきて、ゼンテはライを少しだけ恨んだのだった。 「ライちゃんには、やはりヴェヒター少年の面影があるわ」 「私はアンデレの英雄になれる?」 「これからの頑張りじゃないかしら?」  ライとエルフェンの距離感は姉妹のようにも思われた。  ゼンテは微笑ましい関係を見て、幸せを噛み締める。 「ありがと、ゼンテ。私を連れてきてくれて」  まっすぐに言われてしまうと、ゼンテは照れる。 「ねえ、ゼンテ。私のこと好き?」 「急に何だよ」 「いや、その」  エルフェンの話を聞いて気になってしまったのだ。   「私はゼンテと一緒にいて楽しいし安心するし居心地がいいと思っている。でも、それは永遠に続かない。だから、今ここではっきりさせたい」 「エルフェンさんがいるのに?」 「うん」  エルフェンがいるからか。 「今更かよ。ここまで来たのが証明だよ」 「はっきり言って?」 「好きだ」 「私も」  まさかのエルフェンが一番顔を赤くしている。  そして、恋が実ったからか。  まだまだ期間を要するとされていた世界樹が伸びる。 「今なら『地上』に帰れる。ライ、ゼンテ、どうする?」  エルフェンが言うと、 「私はまだ話したい。急いで帰らないといけない?」 「まだいいわよ。今、あのときと同じくらい楽しい」  エルフェンの罪と、ヴェヒターの罪、ゼンテとライの罪が、三人を会わせた。  互いに許しを請い、許しを与えて、許しを受け止めて。  エルフェンとヴェヒターの『約束の地』で、三人は実に幸せそうに過ごすのだった。  これは、『天界』と『地上』が僅かに繋がる時代、『世界樹』で繋がる妖精と人間の、罪と幸福の物語である。
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