放課後、屋上で君を待つ

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昼休み、関口律は教室で友人たちと笑い合っていた。クラスメイトの軽口や冗談に、律はいつものように飄々とした態度で応じながらも、どこか気が抜けたような視線を窓の外へと向けた。 そこで彼の目に飛び込んできたのは、グラウンドを爽やかに駆け回る辻綾人の姿だった。陸上部のエースの彼は、学園内でもすこぶる評判が良く、教師からの信頼も厚い、律の密かなる憧れの存在だった。グラウンドに照りつける日差しに染められて、辻の短髪が風になびき、額に滲んだ汗がきらめいて見える。まるで風そのものと一体化したかのように軽やかで、それでいて力強い走りだった。 友人たちの会話の内容が耳を通り過ぎていく中、律はなぜかその姿から目を離せなかった。綾人とは同じクラスだが、ほとんど話したことはない。ただ、お互いに違う空気を纏っているからか、いつも少しだけ気になっていた存在だった。 ふと、律の視線に気づいた友人がニヤリと笑ってからかうように言った。 「……何見てんだよ、律?」 隣にいた友人が律の様子に気づき、面白そうに顔を覗き込んでくる。律は一瞬驚いて視線を外し、軽く笑って肩をすくめた。 「別に。ああやって一生懸命なの、なんか…すごいなって思っただけだよ。」 その言葉に、友人は律をからかうように目を細めたが、律はそれ以上何も言わず視線を外した。しかし、心のどこかで彼が走る姿が何かを突き刺すように残り続けていた。
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