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二人は教室を出て、無言で階段を登る。律は、やり過ごすために心の中で少しだけ気を紛らわせようとするが、やはりどうしても辻に対する気持ちが強くなっていくのを感じていた。心臓が高鳴る。
屋上に出ると、冷たい風が吹いていた。夕日が少しずつ沈みかけている時間帯、空はオレンジ色に染まり、その色に包まれながら、二人はしばらく何も言わずに立っていた。
辻が肩をすくめて、「今日は寒いな」と言うと、律は少し顔をしかめた。
「そうだな。俺、あんまり寒いの得意じゃないけど、今日は我慢だな。」
その言葉に辻は少しだけ笑みを浮かべながら、自分が羽織っていたジャケットを律に手渡した。
「寒かったら、これ着て。」
辻が差し出したブレザーを、律は驚いた顔で見た後、少し躊躇してから受け取った。
「あ、ありがとう。」
その瞬間、二人の間に微妙な空気が流れた。律は心臓がどきんと跳ねるのを感じて、少しだけ目を伏せた。律はそのまま手渡されたブレザーを羽織ると、屋上から見える風景に目をやった。
「…あんまりこうやって二人で話すことってなかったよな。」
律は辻のその言葉を聞いて、少し考える時間を置いてから、ゆっくりと答えた。
「そうだな。でも、今はこうして一緒にいられるからいいんじゃないか?」
律の言葉には少し強がりが混じっていたが、それでも心の中で、ふっとした安堵を感じていた。普段の自分では、こうして誰かと過ごす時間を大切にすることがなかなかできない。それが、彼となら自然にできるような気がして、もっと一緒に過ごしたいという思いが募る。
その時、辻が少しだけ黙ってから、ふと顔を上げた。
「関口、最近、なんか…ちょっと変だよな。」
律はその言葉に驚き、目を大きく開けた。
「え?」
辻は少し照れくさそうに笑ってから続けた。
「なんて言うのかな、前よりもそわそわしてる。」
その言葉に、律は心臓が一瞬止まったような気がした。どうしてこんなにも自分の気持ちが隠せないのだろう。綾人が無邪気に問いかけるその瞳を、律はじっと見つめていた。
「――う、うるさいな!気にするなよ。」
律はあえて冷たく言ってみたが、その声はわずかに震えていた。
綾人は少し驚いたように、そしてまた静かに笑った。
「うるさいって…そっか。」
その言葉に、律は思わず肩を落とし、顔を隠すようにして少し遠くを見つめた。その視線の先には、まだ沈まない夕日が広がっていた。
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