放課後、屋上で君を待つ

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実のところ、律はどこかで「自分は誰とも深く関わらず、自由に生きていたい」と考えていた。友人関係も、勉強も、あくまで適度な距離感で。それが楽だと思っていたし、無理に自分を誰かに合わせることが窮屈だった。しかし、あの辻だけは、自分とは全く違うものを見つめ、全く違う熱をもっているように見えた。その「熱」が、律の心の隙間にひっそりと入り込み、胸の奥で小さな違和感を生んでいた。 数日が過ぎ、放課後になると律は何度も無意識にグラウンドへと視線を向ける自分に気づいた。そこには、変わらずひたむきに走り続ける辻の姿があった。どこか周囲から浮いた存在として距離を置いている律とは異なり、彼のひたむきさには強く惹かれるものがあった。 そして、その日の夕方。 校舎を出た律がグラウンドの前を通りかかった時、辻がトラックを周回しながら駆け抜けていく姿が目に飛び込んできた。整った顔は疲労で歪み、呼吸も荒い。それでも、彼は決して足を止めることなく、一歩一歩に全てを込めるように走っていた。 「……ほんと、なんなんだよ。」 思わず漏れたその一言は、律自身への問いでもあった。 彼は、気づかぬうちに辻に惹かれている自分に戸惑っていた。「あんな風に、ただひたむきに何かを目指すことは、自分にはない」と、どこかで羨望と敬意を抱きつつも、その存在が心に微かな痛みを与えていた。 その後、律は意を決してグラウンドに足を踏み入れ、辻の走る軌跡を目で追った。そして、ようやく辻がペースを落として歩き始めたところで、律は軽く手を挙げて声をかけた。 「辻、ちょっと聞きたいことあるんだけど。」 辻は驚いたように律を振り返った。律とは同じクラスだが、話す機会はほとんどなかった。律の心に微かな緊張が走ったが、どこか冷静さを装って続けた。 「…なんでお前は、そんなに走れるの?」 その問いに辻は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、やがて少しだけ目を細めて微笑んだ。 「……理由なんて、ないよ。ただ、走ってるときが一番自分でいられるからさ。」 辻のその一言が、律の心に不思議と響いた。走ることが「自分でいられる瞬間」――そんな感覚を、今までに律は一度も持ったことがなかった。 それがどこか新鮮で、同時にほんの少しだけ、羨ましかった。 律は、そんな辻の横顔をじっと見つめた。そして、言葉にならない感情を抱き締めた。
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