記憶をたどる

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「——深月!」 いつもと変わらない、明るい声で名前を呼ばれて重たい視線を上げた。 「おまたせ」 「なんかあった?」 それを聞きたいのはこっちの方だ。 どうして、そんなに平気な顔をしていられるのだろう。 「早く帰ろ?雨降りそうだしさ」 泣き出しそうな空は私の気持ちそのものだった。 その日を境に、私の陽汰への視線が変わった。 今まで気が付かなかっただけで、明るくて誰にでも優しい彼は女の子からの人気が高いらしく、学年が上がるごとに告白されることと待ち合わせに遅れてくる回数が増えていった。 ずっと変わらないと思っていた関係に突然変化が訪れて、取り残されたままの気持ちを抱えながら何も言えずに、笑顔を絶やさない彼を待つ日々を過ごした。 ただそれでも、毎日一緒に帰ってくれる幼馴染の特権があったから、深い嫉妬も、関係性の変化も、強くは望まなかった。 そして卒業を目前に控えた2月、親の転勤と私の転校が決まった。
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