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あらすじ
*シナリオと言う読みづらい形式の為、下記あらすじは物語を読み進める上での助けになるとは思いますが、当然ネタバレとなっておりますので、先の展開をお知りになりたくない方は、このページを飛ばされることをお勧めいたします。
十一月。
辻あや(26)は、二年目の初期研修医として都心大学病院に勤めていたが、激務の上、気が利かない性格の為、そんな毎日に限界を感じていた。
そんなある日、彼女は心の支えだった恋人から別れ話を切り出され、同時に患者から激しいクレームを受けたのをきっかけに、職務を放り出し、病院から逃げ出してしまった。
白衣のまま冬の町に飛び出し、行く当てのないあやの足は、かつてつらいことがあったらいつでもおいで、と言ってくれた祖父の家へと向かう。
応用物理学者であるあやの祖父、辻一郎(70)の家は、埼玉県の中にポツンとそこだけ取り残されたような東京都、いわば飛地にあった。住居が十軒だけの路地、杉菜町888番に二年ぶりに訪れるあやだったが、玄関で彼女を迎える祖父の顔には、困惑の表情が浮かぶ。
そして、玄関の靴脱ぎに並ぶ、沢山の男女の靴。
ただならぬ家の雰囲気に帰ろうとするあやだったが、広間から顔を出したのは、子供のころから顔見知りの理論物理学者である古田則平(69)、そして今やノーベル賞受賞者となったエネルギー物理学者の池山四朗(65)だった。二人はかつて、辻一郎と一緒にこの土地に引っ越してきた仲間だった。二人は、あやの来訪を歓迎して笑っている。
二階の書斎に通されたあやは、祖父に悩みを聞いてもらっていたが、その最中、一階の広間から呼ばれる。あやは大福をのどに詰まらせた小早川幸子(62)を救い、それをきっかけに、祖父たちの驚くべき計画に医療担当として参加することになる。
計画の参画者は、杉菜町888番の住人達。
すなわち、物理学者の三人の他には、設計技術者とSEである土橋夫妻、電気技師と電気工学者である稲葉夫妻、建設会社の社長と副社長である広沢夫妻、工作機械メーカーの社長と元アイドルの飯田夫妻、弁護士の高津淳三郎(75)など。
彼らは今までこつこつと計画を進め、その実行を三日後に控えていたのだった。
いよいよ、計画実行の夜が訪れる。
初孫の誕生の為、不在だったパイロットと航空工学者である真中夫妻が戻ってきたのを機に、計画は実行に移される。
電線に電話線、上下水道を切り離し、その時に備えるメンバーたち。いよいよ、秒読みが始まった。
そして、五年後。
医師として働くあやは、物理学准教授である婚約者、荒井光とともに、かつての杉菜町を訪れる。そこで待っていたのは幸子。
あやがかつて助けた幸子の夫、国際政治学者の小早川幸朗は海外との折衝を行っていた。国際法学者の幸子は国内の折衝を。
いまや空に浮かぶ国家となった「飛地」の新たな乗務者として、あやと荒井は、祖国が下りてくるのを見上げたのだった。
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