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成長
瑞希の通う幼稚園では、毎年10月になると裏の畑で育てたサツマイモで”イモ掘り会”を行っている。
年長になった瑞希は、年少、年中の時に行ったその会がとても楽しかったようで、最後となってしまう今年は春一番の吹く頃からずっと心待ちにしていた。
早く暖かくなれと毎日テルテル坊主にお願いもしたし、少しでも外の空気を温めようと、ハーハーとたくさん息も吐いた。時にはお日さまに両手掌を向けて、気を送るポーズを取っても見た。
そんな日が3カ月以上も続き、やっと気温も高くなり、イモ堀の為の苗が植えられる日がやって来たのである。
<5月末>
空一面が真っ青に広がるその日、幼稚園のみんなとその保護者、先生たちでサツマイモの苗を植えた。
沢山のおイモが育つ事を想像すると、ワクワクが止まらなくなり瑞希の身体は自然と震え出してしまう。
そんな瑞希が、ふと隣で苗を植える仲良しの郁ちゃんの様子を窺うと、郁ちゃんも凄い勢いで震えていた。
「うわっ、郁ちゃんどうしたの?」
それを見て驚いてしまった瑞希は、慌てて郁ちゃんの身体を後ろから抱きしめる。
瑞希は郁ちゃんが寒さで震えていると勘違いしたのである。
自分が興奮で震えていることも忘れて。
<6月のこと>
それから一週間ほどしてイモの芽が顔を出し始めた。
それがイモの芽(め)だと先生から教わった瑞希は、去年の発芽のことをすっかり忘れて目(め)と勘違いしてしまう。
瑞希がイモの芽に向かい「これはどっち?」と、あたかも視力検査の様に細い棒で指すと、その指す芽を見て郁ちゃんは上下左右を器用に応えてくれた。
郁ちゃんにとっての上下左右の判断は、瑞希にも分からなかった…
芽がたくさん出て来た。
少し伸びたその姿がカイワレ大根に見えた瑞希は、イモ畑にカイワレ大根も生ったのだと大喜び。それが、どうしても食べてみたくなってしまう。
そこで、早速家からマヨネーズを持ちだそうとするが、それを偶然ママに見つかってしまう。
ママからそれがカイワレ大根ではなくイモの芽であることを教わると、瑞希は口をぽっかりと開けて額の冷や汗を拭うと、呟いた。
「危なかった」と。
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