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銀の竹
ある日、猟師の茂助は※※山の竹林で奇妙な竹を拾った。
銀色に光る、小さな竹。
重さは葉っぱ一枚より軽かったという。
茂助は銀の竹を家に持ち帰った。そして、鉈を持って、その竹を真ん中から割ろうとした。
刃を入れると、豆腐に石ころを混ぜたような奇妙な手ごたえと共に、銀の竹は真っ二つに割れた。
中から、人の形をした『何か』が出て来た。
その『何か』は全身が銀色に光る皮膚に覆われており、顔には黒豆のような形をした大きな眼が二つついていた。
茂助の妻は大層気味悪がったが、茂助は好奇心からその『何か』を育ててみることにした。
十日後。
『何か』は十歳かそこらの女の子のような形をした『何か』に成長した。
茂助はその姿を見て、『何か』を娘にしたいと考えた。妻も同意した。
茂助が『何か』へ、お前を娘にしたいと乞うと、『何か』はこう答えた。
━━━アナタの娘を差し出すのなら、私はアナタの娘となりましょう。
茂助には十歳になる娘がいた。茂助と妻は喜んで了承し、娘を『何か』に差し出した。娘は半日かけて『何か』の胃袋へ収まった。
更に十日後。
『何か』は二十歳かそこらの娘の姿に成長した。それを見て、茂助は『何か』を妻として娶りたいと思った。
『何か』は茂助の求婚を受け、こう答えた。
━━━アナタの妻を差し出すのなら、私は喜んでアナタの妻となりましょう。
茂助は迷うことなく妻を差し出した。妻は一日かけて『何か』の胃袋へ収まった。
更に更に十日後。
『何か』は三十前後の凛々しい女性のような姿へ成長した。
それを見て、茂助はこのお方にお仕えしたいと考えた。
平伏する茂助に、『何か』はこう答えた。
━━━この村の人間すべてを差し出すのなら、私はアナタの主となりましょう。
茂助は鉈を手に取り、『何か』の望む通りにした。
長い時間をかけ、村人はすべて『何か』の胃袋へ収まった。
その後、茂助と『何か』は旅へ出た。
『何か』が喉が渇いたというたび、茂助は自らの指を切って差し出した。
『何か』は水を一切口にせず、また、川や池、そして井戸といった、水にまつわるものを激しく嫌った。
茂助は主が水に遭遇しないよう、注意して先導しなければならなかった。
その旅の途中、茂助は行き倒れを見つけた。『何か』は行き倒れをしばらくじっと見つめた後、
━━━何か食べさせてあげなさい。
と言った。
茂助は主の慈悲深さに感動し、自らの腕を切り落として行き倒れに与えた。
茂助の腕を食べた行き倒れはしばらく痙攣していたが、急に弾かれたように起き上がると、目をカッと見開いて何処かへ走り去って行ってしまった。
赤い目をしていた。
茂助は礼の一つも言わぬ行き倒れに腹を立てたが、『何か』は捨て置けと言った。茂助は主の命に従った。
茂助たちが立ち去った後、その地方には人間の腕だけを好んで食べる化け物が住み着いたとの噂が立った。
その化け物は、赤い目をしていたという。
長い旅の末、茂助と『何か』はある霊峰の頂に辿り着いた。
かつて茂助と呼ばれていたものは、その頃にはもう、鼻から上の部分しか残っていなかった。
そして『何か』は、老婆のような姿になっていた。
『何か』は長く山頂に佇んでいた。季節が一周する頃、ようやく天から光が差した。
茂助が目玉を動かして空を見やると、あの日━━主と初めてお会いした時、主が入っていた銀の竹と同じ形をしたモノが宙に浮かんでいた。
ただし、その大きさは『何か』のものとは比較にならぬほど大きく、茂助がかつて住んでいた村をすっぽり覆い隠してもまだ足りぬほどであった。
巨大な銀の竹の中心から、白い光が降り注いでくる。
『何か』の身体が宙に浮き、その光の中へ導かれていく。
途中、『何か』は思い出したように腰に巻きつけていた茂助を手に取り、ほんの少しだけ見つめた後━━
ぽい、と地面へ投げ捨てた。
『何か』を中へと迎え入れた巨大な銀の竹が、天へ還っていく。
茂助は長い長い時間、空を見つめ続けた。
<了>
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