ある暗殺者の少女

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 不幸のどん底に落ちた挙句、息をすることさえ危ぶまれるようになった時、人は我が身を悲しむようなことはしません。かといって勿論、目の前に光明が開ける訳でもありません。ただ、希望も絶望も、分からなくなってしまうのです。  ソフィアも昔は人の死体を見ては悲鳴をあげ、浮浪者に花を散らされそうになった時は心から恐怖し、人を殺しては罪悪感と気持ちの悪さに襲われるような、ごく普通の子どもでした。  しかしある日、ソフィアは人を殺しても罪悪感を抱かなくなりました。目の前で人が死んでも、眉一つ動かせませんでした。もし体を好き勝手されたところで、いや命を奪われたところで、ソフィアは何の恐怖も感慨も思い浮かべないでしょう。これで辛い人生から救われる、という喜びさえも、ソフィアにはきっと無いことでしょう。  だから途中で国王の次男であるクレールに偶然見つかり、彼の自室に無理矢理連れ込まれ、喉元に短剣を突きつけられたところで、ソフィアはやはり何の感情も思い浮かべませんでした。  
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