偽りの王

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 しかしクレールが王位に就いてから、国が傾き始めました。  元々クレールが王位を簒奪したのは、単なる暇潰しです。そんな心持ちでは、王という辛い責務が絶えず伸し掛かる務めを全うすることなど出来ません。  ソフィアを王妃にしたのも、勿論いけないことでした。  ソフィアが暗殺者だと指摘する人は誰一人としていませんでしたが(そんなことをすれば、自分は裏社会に通じた悪い人間だということを公言してしまうことになりますからね)、何処の馬の骨とも知れぬ少女が突然王妃になったところで、ついて来てくれる人も誰一人としていません。  有能な家臣や金持ちの国民はそんな国王を見限り、隣国に逃げてしまいました。やがて隣国の慈善団体からも移住の応援活動が進められ、国にいる人の数は減る一方になりました。  人が減り、異国からの評判も落ち、数年前までは栄華の限りを尽くしていたその国は、荒れ果てる始末になりました。国にはクレールに毎日恨みつらみを零す国民と、自分の役職にしがみ付く家臣がいるばかりです。  「本当、彼奴らって自分が可愛いだけなんですね」  玉座の間で、クレールは王座に腰かけクツクツと笑いながら、自分の膝の上にちょこんと座っているソフィアに語り掛けました。  「自分が可愛い、って?どういうこと?」   ソフィアは王妃になってもなお、嬉しいと思うことが出来ませんでした。城で贅沢三昧に耽っている愚王の妃よと後ろ指を差されても、悲しむことも出来ません。ただ、クレールに付き従うだけです。  「家臣にも国民にも、愛国心も忠誠心も何もないんですよ。ただ、自分が良い暮らしが出来るかどうか、それだけです。彼らにとって私なんて、自分の生活を便利にする為の道具にすぎない」  クレールはソフィアの髪を撫でながら、「貴女だけですよ、私を人間扱いしてくれるのは」と囁きました。  そんな時、閉ざされていた筈の玉座の間の扉が開き、武器を持った兵士と、それを率いるクレールの兄が入ってきたのでした。  
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