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──人付き合いを避けているこの消極的な性格では、仲良くなることはないだろう。卒業するまでまともに話せないかもしれない。例えそうだとしても、一生心の中にいるだろう。
存在を知ってわずか数分の間にそう確信するほど、響に対する印象は強烈だった。
小さいの頃から友人はおらず、放課後も休日も遊びに行くことはもちろんなく、学校でもいつも一人。それで不自由するどころか、むしろそう選択して目立たないように生きてきた。
それは、他人に対して全く興味がないからで、下手に仲良くなれば、何かのきっかけで手のひらを返される、昨日仲良かった友人が、明日は憎悪の目を向けてくる、そんな経験を数多く経てきたせいで、他人というものを諦め、避けていたからだった。
それが、初めて強烈に興味を惹かれ、目で追わずにはいられない存在に出会った。
ただ義務としての学校が、「明日も河瀬に会える」と考えるだけで眠りにつけないほど楽しみになった。
存在を感知し、声に聞き耳を立てているだけ。それで十分だった。ただ響がいるというだけで、灰色がかった学校という世界が輝く世界に見えた。
授業が始まって二週間ほど経った頃、在校生が新入生を勧誘する部活動見学の日がきた。新入生はそれぞれの部室や体育館などを渡り歩き、在校生の努力を一通り見て回る。
部活動に入るか入らないかも自由なので、見学への参加も任意。選択肢に不参加オーケーの文字があれば即座に帰る恭平が、このイベントだけは心待ちにしていた。
恭平がこの高校を選んだのは、家から徒歩10分という近さもあったが、一番の理由は軽音部があるからだった。部活動自体が縮小している昨今、軽音部など絶滅寸前だ。
その珍しい存在が家の近くにあるというので、もっと高い偏差値の高校でも選び放題だったものの、この八代高校を選んだのである。
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