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耳触りの良いことを言っているが、結局は会社のために俺を捨てるんじゃないか。いつからディレクターは会社の犬になってしまったんだ。俺がラジオを始めた頃は破天荒なことばかりやっていたくせに。
今でも忘れない。トーク番組だというのに突如、ラジオドラマをアドリブでさせられたことを。タイトルコールもなければパーソナリティの自己紹介もない。ただ突然、男の独白を流すという狂気。ラジオでは五秒以上無音が続くと放送事故になる。だから俺は無い頭をフル回転させて、アレコレ即興のセリフを喋り続けた。ドラマのクオリティーなんぞ気にしていられない。そもそも起承転結すら危うい。それでもなんとか当時の放送時間だった三十分の枠をやり切った。
あとでしこたま会社から怒られたディレクターは意に介さず、「毎度毎度、同じ型でやるよりこの方が面白いだろうが」と飄々としていた。
あの頃の顧みずなディレクターはもういない。いま目の前にいるのは会社の言いなりになったしょぼくれたおっさんだ。
何か言い返そうと脳内の引き出しを開ける。喋りを生業にしている身だ。反論の言葉の一つや二つ、挨拶よりもたやすく出せる。
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