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煙草を咥えるディレクターの唇が、悔しそうに震えていた。きっと俺の知らないところで何度も抵抗してくれていたのだろう。ディレクターの優しさを思うと思わず泣きそうになる。だが、この後本番が控えていることを思い出し、ぐっと堪える。深夜ラジオは、心をほっとさせる場所でなくてはならない。涙声はそこに相応しくない。
「こんなこと本番直前に言ってすまん。ミーティングでは、どうしても言い出せなかったんだ。俺が言える立場じゃないのは分かっているが本番は──」
「──いつものテンションで、でしょ。俺、何年このラジオやってると思ってるんです? ちゃんとプロとしてリスナーを楽しませてきますよ。任せてください」
俺は自信満々で胸を叩き、笑顔をディレクターに向けた。内心、仕事どころじゃないほど気分が落ち込んでいたが、俺はプロだ。プロは常に一定のクオリティーを担保するからこそプロであり、それでギャラをもらっている。そのギャラに恥じない仕事はするつもりだ。
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