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望む言葉
兄ちゃんが自殺未遂をした。
その話を母さんから聞いたときはこわくて悲しくて、何もできなくなった。このまま兄ちゃんが死んだらどうしようって、そればっかりを考えて過ごした。
結果として兄ちゃんは生きて退院してきたのだけれど、心配で心配で仕方なくて、俺はしばらくの間毎日会いにいっていた。
その度に兄ちゃんは優しく笑ってこう言った。
「もうあんなことしないから大丈夫だよ」
頭を撫でてくれる感触を感じながら兄ちゃんの言葉を聞く。でも俺は兄ちゃんのその言葉を信じられなかった。
兄ちゃんは昔から、会話に困ると相手の望む言葉を察して言う癖がある。きっとこれもその癖で言っているのだろう。
だからこれは、ニセモノの約束なんだ。
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