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「ドッペルゲンガー現象?なんだよ、それ」
「この世には同じ人間が3人いて、出くわすと死んじゃうって聞くわよ。やだやだ、あんた本物のトーマスでしょうね?」
「当たり前だよ!まず、死んでないし、テレビの見過ぎっしょ!?」
ママはケタケタと笑う。
「そうね、その話が本当ならもうすでにあんたはニセのトーマスって事よね。でも、変な人なのかもしれないからあえて近づいたりしないでよ、この辺本当に危ない人が増えてんだから」
「はいはい、もう何回も聞いたよ」
「じゃ、そろそろ勉強しなさい、成績どうなの?」
「その話も毎日聞いてるよ!夕食なに?」
ママはキッチンの鍋を振り返ると、両肩をあげた。
「あんたの世界一好きなフライドチキンと、あんたの世界一嫌いなブロッコリーと煮豆のサラダよ。嫌いでも食べて貰うからね!」
僕の「えぇ〜何だよブロッコリーと煮豆なんて!」と階段を上りながら大きな声でいうと、ママは僕より大きな声で「全部食べないとお小遣いは無しよ!」と言ってきた。
……鼻をつまんででもサラダは食べた方が良さそうだ。
***
次の日。
ポテトチップスとコーラと右側ベンチ。
お決まりのルーティン。
かけっこをする子供が先を走っていた子を1人抜いた。
"お!頑張ってるな、あの子!"
「お!頑張ってるな、あの子!」
隣から僕と同じ声が聞こえた。
コーラを飲むのをやめ、首だけを左に動かした。
僕がいる。
昨日見たニセモノの僕。
あまりの驚きに声も出ないし、動けない。
向こうはダラけた座り方で、にっこりと微笑んでいる。
「……お前、誰?」
ようやく僕は声を出した。
僕は震えるような声だったのに、向こうはニンマリ笑顔で答える。
「僕?トーマスさ。知ってるよ、お前もトーマスだろ?」
「!!」
僕は相手の事を何も知らないのに、ニセモノのトーマスは僕の事を初めから知っているようで怖かった。
恐怖で何も言い返せない。
昨日ママから聞いたドッペルゲンガーの話を思い出す。
「ククク……フフッ!そんなに怖がるなって取って食うなんかしないからさ」
僕の頭の中まで読まれているみたいで、嫌な気分になる。
「な、何の用さ?」
強がってみる。
「用?用なんてないさ?」
僕から目を離し、前を走っていく子達を見る。
その横顔は僕と同じ顔だけど、僕じゃない。
うっすらと笑顔で子供達を見つめるのが何故か怖かった。
?
…首の付け根、耳の下に四角いアザ…?が見える。
小さいけれど正方形のアザ。
これは僕には無い。
僕がニセのトーマスをチラチラ見ているのが気になったのか、ニセトーマスが話を終わらせる。
「暇だからね。あんまり怖がってるから遊びにからかっただけだ。じゃあ、またね、怖がりやのトーマス」
急に手の平を僕の顔の前に出された。
叩かれるかと思って、目を瞑り、首をすくめる。
が、そっと目を開けると、ニセトーマスは消えていた。
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