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その次の日も。
いつものルーティンを終えて、家に帰った。
今日はニセトーマスは来なくて、安心した。
思えば、近くで見れば見るほど僕にそっくりで、そんな事あるんだなと。
でも、もう見たく無い。
いつもならママに「ただいま」と声をかけるけど、またいつものように「宿題は?」「勉強しなさい?」とキャーキャー言われるのが面倒で、2階へそっと上がることにした。
自分の部屋につくと、窓を開けて外を見る。
クラスメイトのアンディとルーカスが僕に気がつき、手を振ってくれた。
僕も片手を上げた。
「ただいま!」
その声に僕は目を大きく見開いた。
僕の声だ。僕の声が下から聞こえる!
ヤツだ!
1階のママに会っているんだ。
危ない!すぐに下に降りなくちゃ!
しかし、ニセトーマスは、ママの話に「分かってるよ!すぐ、勉強する」と言いながら、階段を上がって来る足音が聞こえた。
1階に降りるのをやめ、その場で頭を抱えた。
どうしよう。
自分がこの家に2人いるとバレたら殺されるかも知れない。
何故かそう思った。
僕は咄嗟にベッドの下に潜り込む。
ちょうど僕の足先がベッドに隠れた時に、ドアが開いた。
僕と同じスニーカーが部屋に入ってくる。
ハッハッと息が漏れそうなのを、ゆっくり手の平を口に当てて押し殺した。
手に汗が滲んでくるのが分かる。
奴はベッドに腰掛けた。
あぁ、どうしよう。
僕は何て間の悪い…ママに声をかけておくべきだった。
いや、もし、声をかけていたとしたら、反対にママが危ない目にあう所だったかも知れない。
どうやって逃げるか、で、コイツは一体何をしたいのか……
考えが全くまとまらない。
隠れるんじゃなくて、戦えば良かったのか、でも、どうやって?
僕の部屋には武器になるような物が1つもないじゃないか。
あぁ、戦うより、もう隠れてしまった。
一旦、ニセトーマスが部屋を出ていくのを見計らって、僕もここから逃げる事を考えよう。
そうしよう。
「やぁ、トーマス」
「!!!」
ニセトーマスがベッド下を覗き込んでいる。
何も考えられない一瞬。でも、その一瞬が長く感じた。
ニセトーマスの微笑んでいるのに、全く笑っていない瞳。
その目が異常に恐怖に感じた。
「怖がりやのトーマス。隠れるなんてしなくてもいいだろ。僕たち友達みたいなもんじゃないか」
「な、なにを…っ!」
ニセトーマスが、ベッドから降り、再び僕を覗き込む。
そして唇の弧を大きくしながら、僕に手を差し出す。
「やめろ!触るな!」
「騒ぐなよ、ママが僕たちを見たら驚くぞ。そしたら、それこそ何かしなくちゃいけないかも知れないのに」
「!!」
「フフッ…冗談だよ。何もしないさ、なーんにも。さ、そこから出ろ」
優しく手をもう一度差し出され、僕は震えながらその手を握った。
「怖がり屋のトーマス。今度はベッドで眠れ」
「えっ…」
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