10.浩一の死

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10.浩一の死

 10.浩一の死 「光義くん、ちょっとあれってあなたの家の神様よね。私の所に来て、光義くんが危険な状態にあるから是非とも助けて欲しいと頼まれたから引き受けたんだけど、まさか神様の代わりに電話でお言葉を発する事になろうとは正直思わなかったわ。恥ずかしかったし、ほんといい迷惑!」  二日目、時刻は七時丁度。  どうにか無事に朝を迎える事ができた伊勢間光義は、車で迎えにくるはずだった高円寺神奈を家に入れると、昨日の夜、神奈の身に起きた事を事細かく教えて貰う。  どうやら高円寺神奈は伊勢間家に保管してある怪しげな神様に体を乗っ取られそうになったらしいが、霊力が高いせいか巫女でもある神奈の体は乗っ取れなかったとの事だ。  自分を暁の神、アマテル様と名乗るその得体の知れない神は、仕方なく神奈に声をかけ続けるという作戦に切り替える。  絶え間なく耳元で言葉をかけ続けるアマテル様の粘りに耐えられなくなった神奈は光義の危機を知る。  そんな経緯があり、高円寺神奈は仕方なくアマテル様の言葉を代弁するお役目を実行する羽目になったのだが、電話で首切り坊主を退散させた後も引き続きアマテル様と朝まで会話をする羽目になってしまったので、寝不足気味の神奈は光義宅に怒鳴りこみに来たのだ。  今日は朝早くから高円寺の父の運転する車で霊山に行く予定だったはずなのだが、一人自転車できた神奈はなぜ一人でここまで来たのかという説明も忘れて、昨日霊体として目の前に現れた暁のアマテル様の事についての説明を求める。 「聞きたいことは色々あるけど……それで、暁の神アマテル様とは一体何者なの、詳しく教えて頂戴!」 「アマテル様が何者かだって、それは俺の方が知りたいくらいだ。どうやら神奈さんはアマテル様の霊体が見えるみたいだし言葉も交わせるようだが、ご神体を持っている持ち主の俺は神様の姿も見てはいないし会話も交わせてはいない。そう一度もだ。なのでこの神様の事で神奈さんに話せる事は、暁の神様を手に入れたトメ婆さんの経緯と、その神様が何故このような美少女フィギュア化をしてしまったのかという話だけだ」  伊勢間光義はアマテル様のフィギュアを手に入れた経緯を事細かく説明すると話を最後まで聞いた高円寺神奈は軽く溜息をつく。 「なるほどね、暁の神アマテル様は、八咫の鏡の欠片から生まれた神なのね。生まれてまだ五十年くらいしか経っていないから言動が子供のように幼いのね。納得が行ったわ」 「俺は霊力がないのかアマテル様の姿が見えないんだが、アマテル様は一体どんな姿をしているんだ?」 「形代だという、そこにあるフィギュアと同じよ。そのフィギュアの姿をまんま実写化したような姿をしているわ」 「へぇ、爺さんが作ったフィギュアの姿をそのまま受け継いでいるのか。なるほど、確かにこのフィギュアはご神体であり、そして形代だな」  ここからが本題とばかりに神奈の顔がこわばる。 「光義くん、まずは先に謝っておくわ。実はトラブルがあって、家から車を出せなくなったの」 「昨日の話によれば、神奈さんのお父さんが運転する車で、首切り坊主の呪いを解く為に霊山に行く予定だったはずですが、一体なにがあったんですか?」  不安を隠しきれないのか緊張した顔で聞く伊勢間光義に、高円寺神奈は落ち込んだ顔ををみせると少し震えた声で答える。 「昨日の昼に、神社で光義くんと別れた直ぐ後に、仕事で車を走らせていた父が玉突き事故に巻き込まれて入院する事になってしまったの。幸い命に別条はなく、左足を折っただけで済んだけど、父の話では事故にあい、意識が朦朧としている時に突然耳元で話しかけられたそうなの」 「話しかけられたって、一体誰に?」 「首切り坊主によ。首切り坊主が言うには、死にたくないのなら、もう呪われし弱き者達には一切かかわるなと警告を受けたそうよ」 「呪われし……弱気者達か」 「だから霊山行きは急遽中止になったの。どうあっても光義くんと加也子さんの二人を逃がすつもりはないようね」  高円寺神奈の口から何気に出だ言葉に、光義は違和感を感じ聞き返す。 「首切り坊主の呪いにかかっているのは俺と加也子だけじゃないだろ。浩一もいるだろ。しかし浩一の奴、遅いな。昨日の夜に電話で、朝早くに家に行くと言っていたのに一体何をしているんだ?」  光義は時間を気にしながらも浩一が訪れるのを待つ素振りをみせるが、話を聞いた神奈は辛そうな顔をすると静かな口調で話し出す。 「浩一くんは、ここには来ないわ」 「へぇ、神奈さん、何言ってんだよ?」 「知らないの、今日の朝方にニュースにもなっていたじゃない。結構大きな事件よ。昨日の夜に浩一くんが台所から包丁を持ち出して、家族のみんなを順番に刺し殺して、後に彼も自分の首を刺して自殺をしたと聞いているわ。家族仲は良好だったらしく、犯行に至る動機が全く分からないと警察が言っていたとの事よ」 「浩一が家族を皆殺しにして……その後自分の首を刺して自殺しただとう、そんな事があって溜まる物か。きっと浩一は首切り坊主に取り憑かれて自分の意思に関係なく犯行に及んだんだ。自殺して死んだ元太と同じように」  神奈が話すその衝撃的な事実に意気消沈する光義は目から流れてくる涙を拭うと、まだ生存確認が取れない加也子を心配をする。 「加也子さんは、加也子さんは一体どうしているんだ。元太に続き浩一も死んでしまったというのなら、もう手段を選んでいる余裕はないな。一刻も早く加也子さんと合流をして、今後の対策を考えるんだ!」 「ていうか、もう面倒くさいから直接加也子さんの家に行きましょう。その方がすれ違いの防止にもなるし、手っ取り早いから」  高円寺神奈の機転で加也子の家に行くことが決まった伊勢間光義は新たに持って来てくれたお札と粗塩、それに神水が入ったペットボトルをリュックの中にしまうと、机の上に置かれてあるアマテル様のフィギュアに一礼し、家を出るのだった。
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