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18.神奈の苦悩
18.神奈の苦悩
一方その頃、高円寺神明神社に辿り着いた高円寺神奈は、新しいお札と粗塩、それと神に捧げていたお米を持ち出すと、手水舎で神水を汲み、急ぎ光義の家に向かおうとするが、ただならぬ様子を見ていた神奈の母親が彼女を必死に止める。
「もう日も暮れそうなのに一体どこに行くの。お父さんだって怪我をして入院しているのに、今日は大人しく家にいなさい!」
「お母さん、でも私、どうしても行かないといけないの。私が行かないと、同級生が死んじゃうかも知れないから!」
「なんですってぇ、一体どういう事よ?」
神奈は今現在伊勢間家に起きている恐ろしい出来事を事細かく伝えるが、その話を聞いた母親は血相を変え神奈の行動を窘める。
「絶対にその伊勢間家には行っては駄目よ、その呪いにあなたが関わる必要はないし、命が幾つあっても足りはしないわ」
「でもお母さん、このままだとその伊勢間光義くんが死んじゃうの、それに約束したから。準備をしたら必ず助けに行くって!」
「あなたが行ってどうなるの。話じゃお父さんもお祓いに失敗して匙を投げたっていう話じゃない。しかもその報復とばかりに大きな怪我までさせられている。その首切り坊主とかいう得体の知れない悪霊は、なんでそんな直接的で殺傷力の強い呪いを使えるのよ。この事件、なんだか嫌な予感がするわ。私も巫女をしているから感じるけど、この件には絶対に関わってはいけないような気がする」
強い口調で娘の身を案じる母の姿を見ていた神奈は暖かい気持ちになりながらも自分の意志の強さを押し通す。
「お母さん、心配かけてごめんなさい。でも私は行くわ。この神社のお祓いで光義くんを救えなかったのは家の責任だし、この件に乗ったのも神に仕える巫女としての、私の意思よ。それに昨日、あの暁の神にも直接、光義くんを助けてあげてと、言われたから、神社に仕える巫女としては、神様の頼みを断る訳にはいかないでしょ。おそらくこれは、神様が我々人間に与えし試練だと私は思っているわ。だからその信頼に応えないと、私はいけないの!」
「暁の神様……それって本当に神様なの。ただ単に悪霊が神様に化けて、あなたを惑わしているだけじゃないの?」
暁の神という存在を怪しんだ神奈の母親は尚も神奈の行動を静止しようとするが、その光景を見ていた神奈の祖母が二人の間に割って入る。
「何をそんなに騒いでおるんじゃ、もう夜になろうとしているのに、さすがに近所迷惑じゃろ」
「「おばあちゃん!」」
思わぬ祖母の声に二人はその場で停止する。そんな二人を見ていた祖母だったが、その視線を神奈に移すと、凛とした声である言葉を聞き返す。
「神奈、本当に暁の神様が、直々に、お前の前に現れたのかい?」
「はい、姿を現して、お声をかけて貰いました。その神様は天照大御神のご神体でもある八咫の鏡の欠片から産まれた神との事なので、太陽の神様の力の一部を受け継いだ子供でもあり、天照大御神の分身ともいうべき存在だと私は思います。しかもその神様から直々に伊勢間家の人達に力を貸してあげて欲しいと頼まれたのですから、天照大御神を祀っている家の神社としては、まさに名誉な事だと実感しています。確かに首切り坊主は強力な悪霊ですが、ここであの怪異を野放しにしてしまったら取り返しのつかない事になる。もう既にあの怪異の手にかかって、人が何人も死んでいるのですから、首切り坊主との対決は絶対に避けられない使命だと言う事です。そしてそんな重要な使命に私を選んでくれた暁の神の信頼を得る為にも、私は(神憑きである)光義くんを救わないといけないんです。絶対に!」
「「……。」」
神奈の決意ある言葉に母親と祖母はしばらく押し黙っていたが、溜息交じりに祖母が言葉を掛ける。
「そうかい、神様から直接御告げという形で頼みごとをされたのなら、仕方がないな。これも代々この神明神社を受け継いだ巫女の使命だというのなら、その責任を全うしなさい!」
「おばあちゃん、なにを言っているの、そんな危ない使命、神奈には無理よ!」
「嫁は黙っていなさい。この神社の神主でもある私の息子の当主が得体の知れない化け物に怪我をさせられたのじゃ、この屈辱はお祓い程度では生温いわ。復讐じゃ。神奈よ、お前はこの神社始まって以来の霊力が極めて高い才能のある巫女じゃ、ならその素質を認めてくれたその暁の神様に従って、必ずその首切り坊主とかいう腐れ外道を地獄送りにするのじゃぁぁぁぁ!」
自分の言葉に興奮しているのか、いきなり荒々しい言葉を発する祖母はスーパーおばあさんとなり、啞然とする孫の神奈を激励する。
「いけぇぇ、神奈よ。行って、自分の使命を果たしてこい!」
「はい、おばあちゃん!」
憮然とした態度で見つめる祖母と諦めた表情をする母親に深々と頭を下げると、神奈は勢い良く後ろを向く。
「よし、行くか。待ってて、光義くん。今行くから!」
祖母の許しを得た神奈は荷物の入った鞄を素早く手に持つと、おそらくは対決の場となる伊勢間家に向けて急ぎ走るのだった。
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