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1.五チャンネル
1.五チャンネル。
「光義、お前、九尺様って知っているか」
一応事件は片付き、あの陰惨な首切り事件が終息したその一か月後、伊勢間光義はある男から声を掛けられる。
いきなり話しかけてきた男の言葉に光義は少し考え込んでいたが、直ぐに思い出すと何気にその答えを言う。
「九尺……なんだそれは、まさか八尺様の間違いじゃないのか?」
「いいや、八尺様ではない、九尺様だ。なんでも九尺様は2.727センチメートルの身長をした長身の成人女性で、白い麦わら帽子に白いワンピースを着た出で立ちの妖怪との事だ」
「高身長で、白い麦わら帽子にワンピース、か」
「長い黒髪を揺らしながら現れ、ポポーーポポ、ポポーーポポと不気味な声を響かせながら近づいて来る事から、5チャンネルで有名になったあの都市伝説の妖怪、八尺様を連想させるが、どうやら別物の妖怪らしいんだ」
「でもそれって、どこからどう聞いてもやはり八尺様ですよね、一体なにが違うと言うんですか?」
「八尺様とは大きさが違うだろう、大きさがよ!」
「いやでも、それって、さすがに調べようがないんじゃ……」
疑問の言葉を呟く光義の態度に、先輩らしきその男子学生は自信に満ちた目を向けると、更に話を続ける。
「なんでもその九尺様と言う怪異は、幼い子供を見つけると言霊の力で心を惑わし、白い手という呪いの力で自分の元へと引き寄せ、手を握った者をあの世に連れて行ってしまうとの事だ。そんな恐ろしい妖怪がこの町にも現れたという噂を聞いたからこそお前に話を振ってみたんだが、なにか感じる物はあったかね。我が心霊オカルト研究部の部員にして、最大の戦力でもある神憑きの後輩、伊勢間光義よ!」
時刻は十六時丁度。
授業も終わり一年B組の教室を出た一人の男子高校生は部室に入ると、既に待ち構えていた先輩の話を聞く。。
ドアの上の看板に心霊オカルト研究部と書かれてあるその部室は様々なオカルト関係のグッズや本が置かれており、隠居臭い部室の中を更に不気味に染める。
そんなレトロかつ奇抜な部室で怪異の話を聞く男子学生の名は『伊勢間光義』、最近起きた事件がきっかけで神憑きとなったごく普通の高校一年生の生徒である。
そして今、隣で怪異の話を振っていたのは光義の先輩にして、この心霊オカルト研究部の部長でもある高校二年生の『須田林太郎』だ。
オカルトマニアの須田林太郎はいつも不可思議な謎や心霊の解明に勤しんでおり、部活を通して様々な謎の追及と発見に心躍らせる。そんな須田がいる心霊オカルト研究部の部員に光義がなぜなっているのかというと、それにはちょっとした訳がある。
今から一週間前、光義は急遽須田林太郎に呼び出される。なんでも須田林太郎の家は代々お寺を継いでいる家系であり、長男は檀家を守る為に住職を仕事とするのが習わしとの事だ。
そんな家系の長男でもある彼の趣味は危険なオカルトグッズを集める事で、所謂呪物と呼ばれる物を主に率先して手に入れていたが、その日たまたま持っていた、とある呪物のお陰で、光義が神憑きである事がばれてしまう。
そこから巫女である『高円寺神奈』の協力や、この世を脅かす妖怪や悪霊のような危険な存在が現実にいる事を知った須田林太郎は伊勢間光義と高円寺神奈の二人を勝手にオカルト部員にすると、この街で起こる様々な謎の解明と不可思議な怪異の撲滅を宣言する。
勝手に入部をさせられた事で伊勢間光義と高円寺神奈の二人は当然反発したが、悪意ある怪異からこの町や人々を守る為だと巧みに言いくるめられ(邪神様やその他の怪異の情報を集めるために)仕方なく部員になる事を承諾する。
そんな事情もあり、放課後部室に呼び出されていた光義は、須田林太郎がこの話を振って来た訳をなんとなく理解する。
「それで、一体なにがいいたいんですか?」
「もう分かっているだろ、この町の異変に気づいた俺達のなすべき使命は一つだ。この町に現れたという九尺様について、調査し調べるのだ。いくぞ、伊勢間!」
「ええぇぇーー嫌ですよ、そんな所にわざわざ行くなんて、危険じゃないですか!」
「ハハハハハ、なにを寝ぼけた事を、だから行くんだよ。もしもこんな妖怪が本当にいて、野放しになっているというのなら、誰かがその九尺様という妖怪をなんとかしないといけないだろ。それができるのは行政機関の警察か? いや違う、ならなんの力もない町の住職や神職達か? いいやそれも違う、なら自国を守る自衛隊か? 当然それも違うだろ。なら一体誰だ? そうだ、この過酷な使命を成し遂げられるのは、それは我々を置いて他にはいないはずだ。そうだろう、伊勢間光義!」
「どういう理屈だよ、ちょっと意味が分からないんですけど?」
この人やはり頭が可笑しいんじゃないのかと思う光義だったが、須田林太郎は顔を近づけると構わず話を続ける。
「なにを恐れている。君には悪意ある怪異に対抗できる、強大な力があるだろ。あれはこの世に生れ出る妖怪達を封印し消滅させる事のできる太陽神の力だ。世界広しといえど、あの神様の力を操れるのはお前だけだ。もっと自分の使命を自覚したらどうだ」
いちいちしゃべり方が暑苦しくて胡散臭いんだよと思う光義だったが、熱血漢溢れる先輩の行いに文句を言ったらそれこそ面倒臭くなりそうなので、遠回しにやんわりと断る素振りをみせる。
「いやいや、俺はその神様の姿は殆ど見えないし、初めて見たのは、首切り坊主にとどめを刺した時に見た、あの時だけですから」
「それでもお前に神様が憑いている事は、我が呪いのアイテムで、もう既に証明済みだからな」
「でもこの神様は色々と条件がそろわないと霊感の無い俺には全く見えませんよ。現役の巫女で霊力の高い神奈さんなら姿は見えるし、声も聞こえるらしいですが、それでもその神様にとって必要なのは神憑きでもある俺なのだそうです。でも神奈さんにそこまで適性があるのなら正直彼女が俺の代わりに神憑きになってくれたらいいのですが、そうもいかないみたいです」
「当然だ、神との契約で光義、お前が神憑きとなったのなら、その神様は自身のご神体の傍とお前の近くでのみその力を振るう事ができるはずだ。霊力の高い高円寺神奈は、あくまでもその神様の言葉を伝えるだけの、ただの伝言役に過ぎないはず。だからこそお前が最も重要なのだ」
「はあ……そう言う物ですかね」
「神様憑きのお前と、霊力の高い現役の巫女に、様々な特急呪物のコレクションを持つ寺の跡取りの俺の三人が力を合わせれば必ずこの町に蔓延る様々な怪異から人々を守れるはずだ。そういう訳で高円寺神奈がここに来たら直ぐにでも出掛けるぞ。俺達の手で、子供達が次々に消えるという、九尺様が関わるとされる不可思議な謎を解明するんだ!」
「今から子供達が消えたという現場に出向いて、本当に調べるんですね」
「当然だ、いくぞ、伊勢間光義!」
「はあ~、町の子供達をどこかに連れ去ってしまうという怪異、九尺様……か」
熱い熱量でやる気をみせる須田林太郎とは対照的に(首切り坊主の件もあり)なるべくなら怪異とは関わりたくないと思っている伊勢間光義は大きく溜息をつくと、自分が感じている嫌な予感が外れる事を心の底から切に願うのだった。
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